霊感持つ勇者
それから夜までの間は大きな問題も起こらず、オレはあれこれと考えを巡らせることができた。
ルージュもラスキャブもアーコも気を使ってくれているのか、それともオレの顔が無意識に話しかけるなという雰囲気を出していたのかは知らないが、いずれにしても長い長い沈黙があった。
野宿をするための野営準備を終え、昼と同じくパンと干し肉が配られる。配膳にきた商人の小間使いの男が「こんものばかりですみません」と一言詫びを入れてきた。どうやらドリックスを討ったことは殊の外オレの株を上げてくれたらしい。
「こんなものも何もそういう契約を結んでいるだけだ、アンタの気にするところじゃない。気を使わなくても、この旅程の間は仕事はきっちりとするさ」
食事の間もオレ達のパーティだけは無言であった。特にラスキャブには悪い事をしてしまったと思う。ただでさえ気を使う奴なのだ、今頃は休んでいる心地すらしていないだろう。オレは無理にでも話を振ろうと思って、丁度良く手に入れたドリックスを使うことにした。
「せっかくだ。こいつも少し食べてみるか?」
「え?」
突然話しかけたものだからラスキャブは動転してしまった。
その様子にオレは微かに笑いながら、ドリックスの可食部の肉を少し削いで焼いてみることにした。ルージュも気を利かせて先日のように装飾を変形させた串を差し出してきてくれたので、有難く使わせてもらう。
「悪いな、気を使わせてしまって」
「い、いえ。そんな・・・わたしなんかは別に」
そういうとまた沈黙が流れてしまった。こういう時、気の利いた言葉の出てこない自分が嫌になる。アーコに狼の姿に変えて貰えれば、少しは口が回ってマシになるかも知れないが流石にこの場所で変身する訳にも行かない。
・・・。
・・・・・・。
狼の姿に変われば口が回る・・・?
なんだ?
この言葉がやけに頭に引っかかる。パズルのピースは見つけたたが、どこにハメるのかが分からない様な、そんな感覚に陥る。
その時、ルージュの窘めるような声が聞こえた。
「主よ。焼き過ぎではないか?」
「ん? ああ、すまん」
物思いに耽り過ぎて、肉が焦げ付かせる一歩手前の状態だった。ラスキャブはオレが差し出した串を遠慮しがちに受け取ると、恐る恐るリスのようにかじって食べた。オレも食文化が違う地域で初めての物を食べる時は同じようにしていた事を思い出す。
「あ、美味しい」
「食肉としての味だけを考慮すればドリックスは世界でも五本の指に入るほど美味いからな」
「何と言いますか、不思議な食感ですね。獣肉なのは確かなんですが、どことなく魚っぽいような感じもします」
「ドリックスは昔のいかれた魔導士が兎と魚を融合させようとしたが、それが失敗して生まれた魔物と言われいるからな。あながち間違ってはいない」
ラスキャブにそう説明をするとオレの頭の中で小さな音がした。それはさっきのパズルのピースが収まるべき場所にきちんと収まった時の音だった。
オレはにわかに立ち上がる。その様子にラスキャブだけでなく、ルージュとアーコも驚いた。
「主よ、どうした?」
「ラスキャブ。すまないがルージュとアーコと話がしたい。少し、ここで留守番を頼む」
「あ?」
アーコは怪訝な顔になる。話があるなら、またテレパシーを使えばいいだろうと思っていたのかも知れない。けれど、試さなければならないことがある。会話だけでは不十分だ。
「ルージュ、行くぞ」
「わ、わかった」
オレはルージュを連れ、アーコの入った檻を持つとその場を離れた。なるたけ人目に付きたくはなかったので、すぐそばに小さな林があったのは幸いだった。
オレ達は林の闇に溶けるように消えていった。
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