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剣握る勇者

 ラスキャブは元より、アーコさえも余計なちょっかいは入れずに黙ってオレの話を最後まで聞いていた。そしてそれっきりオレ達の会話は終わってしまった。それぞれが黙り込んだまま、遠くを見たり、目を閉じたり、横になったりしながら馬車に揺られている。


 間もなく昼を過ぎるかと言った頃合いで、通過点の村に辿り着いた。ひとまず、ここまでは順調のようだ。


 商人の小間使いたちが馬を休ませたりしている様子を、配られたパンと干し肉を齧りながらぼんやりと見つめていた。


 護衛の仕事は暇だと思えている内が一番だ。今まで何度か引き受けた事はあるが、一度の戦闘もなしに任務が終わったことは過去に一度しかない。盗賊に襲われることは比較的に稀だが、魔物にはほぼ確実に襲われる。特に今日、明日の二日間は夜には野営となる。


 だが、心配する要素は皆無といってもいい。経験も戦力も申し分ない。この一帯で出てくるような相手に後れを取ることはないはずだ。


 ◇


 村を出て数刻。


 予想通り、魔物の群れが現れた。より正確に言うならば、後ろから近づく気配を察知した。


 驚いたのはラスキャブがそれに自力で気が付いた事だ。確かにかなり濃い日々を過ごしているし、本人も飲み込みが早いから成長するのも早いのかも知れない。


「ルージュ、ラスキャブ。準備をして待っておけ」


「心得た」


 オレは馬車を降りると駆け足で一番前の馬車に向かった。中二つのリホウド族のパーティと商人に立ちにも後ろから魔物が近づいてきている事を告げる。連中は慣れていないようで色々と慌てていた。


 耳のいいリホウド族のパーティに索敵と見極めを頼むと、そこのリーダーを引き連れメカーヒーの元へと行った。敵によって全体の歩を止めた方がいいか、それとも護衛を残して場を離れる方が吉となるかが変わる。


 そんな話をしていると、リホウド族の男が血相を変えてやって来た。


「ヤバい・・・『ドリックス』だ」


「なんだと!?」


 その場にいる全員がその名にギョッとした、こんな所に出る魔物ではないからだ。もし本当なら中級以上、上級のパーティであっても下手をしたら死ぬこともあり得る相手になる。


 オレはすぐさまに後方に戻る。そして息をのんだ。


「本当にドリックスだ・・・」


 草むらの石の上に乗ってじっとこちらを伺っている。姿を見せたという事は、襲うつもりでいるのは明白だ。


「御主人さま・・・あの魔物は、なんかこう、まずくないですか?」


 ラスキャブは肌で強さを感じ取ったのか、そんな事を言ってきた。鋭敏なその感覚は確かなようで安心した。


「ああ、かなりマズイ」


「へえ、ドリックスか。よかったじゃねーか。食うと中々美味いらしいぜ、アレ」


「まともにやったんじゃ食われるのはこっちだろう」


 ドリックスは古い魔導士が実験に失敗した時に生まれた魔物と言われている。何でも兎と魚を融合させようとしたが、失敗し結果大型の肉食獣になってしまったという。


「何をマジになってんだよ。自慢の剣を使えば訳ない相手だろう」


「まあな。だが、始めからそれを選択肢に入れる訳にはいかない」


「あ? どうしてだ?」


「さっき説明した通り魔王に勝つために、もう一度鍛え直しているんだ。ルージュにばかり頼っていたんじゃ意味がない」


「・・・バカだねえ。気が付いてないのか? それとも二人して俺をからかってんのか?」


「どういう意味だ?」


「やってみりゃわかる」


 オレはルージュの顔を見たが、ルージュも困惑の表情を浮かべている。


 オレ達が思案あぐねいているうちにリホウド族のパーティが、万全の体制を整えて戦闘態勢を取っていた。しかし全員の顔が固い。心意気は認めるが、勝負になる気配すらない。ドリックスは彼らを相手取ると決めると、岩の上から跳躍し野を駆けてきた。少なからず、オレ達の牽制は効いていたらしい。


 ここまできたら、魔王との闘いの事まで考えている余裕はない。いくらオレでも人死にと天秤にかけてまで、強さを求めたりしたくはない。


「ルージュ。剣に戻れ」


「承知した」


 剣となったルージュを掴むと、オレはリホウド族のパーティを飛び越えてドリックスに立ち向かう。


 体に宿っている感覚が妙に懐かしく感じていた。


読んでいただきありがとうございます。


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