攪乱する勇者
どのパーティにも必ずと言っていいほど回復役がいる。なによりも優先してそこを叩かなければならない。回復役のレベルが高ければなおさらのこと。でなければ即死させる以外の攻撃が意味をなさなくなるからだ。
だが、よほどレベルや技量が離れていない限り即死させるほどのダメージを与えられることはない。だから尚更のこと、オレはまずレコットを殺さなければならないのだった。
だが、そんな事は相手も百も承知だ。数で優っていても奴らに油断はない。
パーティの闘い方は、いつもと同じ連携だった。
肉弾戦タイプのシュローナを先頭に他のメンバーがそれを補助する。総合的な能力で言えば、オレはシュローナに劣っている。だから近接戦はできない。しかし、体捌きと速さでシュローナを突破しても、バトンの強力な範囲攻撃魔法とフェトネックの正確無比な弓矢がレコットへの接近を許してくれない。
オーソドックスな戦法だ。だからこそ付け入る隙がない。
◇
いつもなら、あの中にオレがいるはずだった・・・。
こんな形でこいつらの強さを再認識すると、涙よりも怒りの方が湧いてくる。
心は嵐よりも荒れ狂っているのに、頭は冷静だった。
オレは奥の手の準備をした。
◇
戦い方、クセ、戦闘思考の全てが互いに筒抜けだった。ともすれば数がものをいうことくらいガキでもわかる。だからオレは、突如として戦法を変えた。苦手な魔法や不格好な投石を織り交ぜて、剣を使わずに距離を置く戦い方をする。
シュローナは勢いを変えなかったが、後方の三人は違った。オレの様子がおかしいと思ったのか、見るからに攻撃の手数が減っている。これは嬉しい誤算だった。
次にオレはレコットとの距離を一気に詰めた。焦った三人が急に攻撃を仕掛けてくるが問題ない。すぐに踵を返し、再び遠距離からシュローナを狙う。これを数度繰り返した。
そろそろバトンかフェトネックがオレの意図に気付くはず。そして後ろの三人の動きの移り変わりがそれが伝わったことを教えてくれた。
三人の傍観を決め込んでいる魔王との距離を詰め始めた。オレが性懲りもなく魔王に飛び掛かるつもりである算段だと読んだのだろう。
「上手くいった」
そう口から零したオレは、爆発魔法を使った。バトンのそれに比べれば威力は精々十分の一以下。だが、これは攻撃ではなく先程と同じく煙幕を張るためのものだ。
煙幕に身を隠したオレは、火炎の魔法を魔王目掛けて放った。が、それは案の定読まれていた。レコットはすかさず魔法で被膜を生み出し火炎を止め、フェトネックとバトンが煙幕の広がった範囲全てを覆い尽くすかのような猛攻を仕掛ける。
出遅れてオレの策に気が付いたシュローナも魔王を庇うように立ち、煙から飛び出してくるであろうオレの迎撃態勢を整える。
だが、待てど暮らせど煙幕からオレが現れることはない。
オレの奥の手は魔王にもう一度不意打ちをするためのものではなく、当初の予定通りここから逃げるためのものだ。
痺れを切らせたバトンが風の魔法を使う気配だけが離れたオレの元に届いた。煙幕を晴らして分かるのは、オレがまんまと逃げおおせたという事実と、その逃げ道になった大穴を開けたのは自分の魔法だったって事だけだろう。
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