赴く勇者
それからメカーヒーとの約束の時間になるまでの間、アーコはオレの姿を元に戻してはくれなかった。
狼の姿でいる時は、自分でも分かるくらいに性格が一変する。よく言えばのんびり、悪く言えばいい加減な性分になってしまう。宿屋から出るのも鬱陶しく感じるようになってしまい、ルージュとラスキャブに銀貨を渡すと旅の支度と適当に買い物でもして来ればいいと言って放っておいてしまった。ただ、せめてもの意趣返しにとアーコはずっと部屋の中に軟禁しておくことにした。
あれほど試したかった技の実践も何となく嫌気がさしてしまい、とにかく残りの一日を惰眠を貪る事で消費した。
そして翌日。
目的を果たしたら、また狼に戻してやると言う脅し文句と共に変身術が解かれた。
宿屋を引き払い、オレ達は指定をされていた東側のゲートに向かう。
「てっきり夜にでも出発する物かと思ってました」
ラスキャブが誰に宛てる風でもなく、そんな事を呟いた。確かに、妖しさ満点の仕事だからそんなイメージを持っても不思議はない。
「怪しい物を怪しく運ぶんじゃただの馬鹿だろ」
ラスキャブに檻を持たれていたアーコがそんな返事をした。ラスキャブにアーコを任せたのは、一番無難だと思ったからだ。
ゲートに辿り着くと、メカーヒーはすぐに見つかった。
数台の荷馬車を囲むように商人の一団がおり、メカーヒーはあれこれと指示を飛ばしている。取り纏め役として他の商人よりも頭一つ抜けている雰囲気は出ているが、それでもあの宿屋の一室での胡散臭さは綺麗になくなっている。『役者になりたいなら商人に弟子入りしろ』などという古い言葉を思い出したが、正しくその通りだと思った。
メカーヒーはオレ達に気が付くと、すぐに従者の一人に指示を出した。その者に連れられて出発までのもう少しの間、酒場の一階のスペースで待機することになる。
中には既に四人一組のパーティがいた。四人ともが猫の顔を持つリホウド族であり、種族統一型のパーティであるようだ。リーダー格の男と軽く会釈する程度の挨拶を交わすと、オレ達は反対側のテーブル席を陣取った。
(あやつらは?)
座るのと同時にルージュがテレパシーを飛ばしてくる。
(おそらくは同業だろうな)
(…これは我らを信用していないという事か?)
ルージュがそう尋ねた時、オレ達の頭の中にもう一人の声が響いた。
(ありゃ単なるカモフラージュだろ)
((アーコ!?))
アーコは器用にもオレ達の精神会話の中に容易く入り込んできたのだ。
(こっちと実力が均衡してるとは思えねーし、素人を雇えばますますヤバい物を運んでいるって感じはしなくなる。信用されてないのは向こうの方だ)
それはオレも同意見だった。腕前を少数だけ素人の中に入れて保険をかけつつ物を運ぶと言うのは、ああいった奴らの常套手段だ。これは道中の盗賊対策というよりも街の中で怪しさを消すために行う。
(こりゃ予想よりもヤバい物かも知れねえな)
アーコはさも愉快そうに笑った。
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