たじろぐ勇者
そうやってぼんやりしていたところにルージュが声を掛けてきたので、少々驚いた。ルージュはオレが驚いたことに驚いてしまったが、二人ともすぐに気を取り直して接したのだった。
「どうかしたか?」
「自分で選ぶというのも楽しいものだが、主にも見てもらいたい。理想を言えば主の選んだものが私の好みと合致すればいうことなしなのだが」
「オレが?」
「私への褒美なのだろ?」
飽くまでも冷ややかに笑うルージュを見ていると、どうにも断ることはできなかった。何度か握ってみた感触、質感、剣の見た目などを思い出しながら、壁に掛かった鞘を物色する。
しかし剣を選定することは数多くあったものの、鞘を選ぶというのは何を見ればいいのかがまるで分からない。こうなってしまうと、単純にルージュに似合うかどうかという曖昧な感性に頼るしか術がなかった。
◇
「これなんかはどうだ?」
そう言って細かな輝石が散りばめられ、鳥の彫刻が映える鞘を取ってみた。だが、どうにもお気に召さなかったらしい。
「・・・子供っぽくはないか?」
「そ、そうか?」
子供っぽい鞘というのが、どういうモノなのかは少しも分からないが、ルージュがそういうのなら剣に取ってみればそうなのだろう。オレはめげずに次の鞘を選ぶ。
「なら、これは?」
次に取ったのは青みがかった鞘の縁を真鍮で覆ったような、気品を感じる鞘だった。鞘の一部に意図的に穴が開いており、剣を納めていても、刀身が覗けるような遊び心もある品だ。
「際どすぎる。私の好みに合わん」
「き、際どい? これがか?」
「ああ。少し攻めすぎだと思うがな」
「うーむ」
どうしても基準が分からない。そもそもルージュの好みというのを理解していないのだから無理もないことだ。
そこでオレは発想を変えてみることにした。実際に鞘と剣を持つのはオレなのだから、オレが身に着けてみて似合うものにすればいいのではないかと思ったのだ。少なからずルージュとは通じるものがある。ひょっとすればそう言った好みの部分でも似通うものがあるかもしれない。
時代が染みた鉄製の枠に固定用の皮を巻いただけの、シンプルだがその分無骨さが引き立っていてオレの趣味には合う。
「なるほど、主はこういうのが好みか」
「まあな」
ルージュは鞘を受け取ると嬉々として見ていたが、すぐに落胆の表情へと変わる。
「・・・ダメだ」
「どうした?」
「私には小さすぎる」
「ああ。これでは収まりきらん」
ルージュは渋々と鞘を壁に戻した。そして店主と思しき男に声を掛ける。
「店主よ、鞘は今出ているだけしかないのか?」
しかしその質問に返事が返ってくることはなかった。見ればいつの間にかカウンターにいたはずの店主が奥へでも引っ込んだのか、いなくなっていたのである。
オレとルージュは、もぬけの殻となったカウンターの上に一つの鞘が置かれている事に気がついた。何となく気になったオレ達は、つかつかと歩み寄って確かめてみる。そこには、黒檀を基調とし、いぶし銀の細工をあしらった妖艶な鞘が一つ置かれていた。そして、それを重し代わりにメモが挟まっている。
『こちらの鞘など如何でしょうか? お代はお気持ちをお納めくださいませ』
オレ達は黙って顔を見合わせた。
ルージュはそのまま鞘に手を伸ばすと、息を飲み、緊張した様子になった。それはオレもすぐに理解した。鞘は粛々としながらも。オレ達二人を黙らせるほどの烈々とした覇気を滲みだしていたからである。
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