気が付く勇者
翌朝。
ルージュとアーコの諍いは冷戦となる事で決着していた。
食事も睡眠も無用とは言え、二人の魔力は有限だ。余計な事で消耗するのは勘弁してほしい。双方からそれぞれの顰蹙は買うだろうが、それでも提言使用した時、助け船があった。
ラスキャブが二人の間に入ってくれたのだ。ルージュとアーコの距離を離と、
「ワタシがアーコさんとお話してますので、ルージュさんはご主人様と一緒に出掛けてこられてはどうですか?」
と言った。
オレ自身、場の空気を読むのは得意ではないと自負しているが、流石にこれは感じ取った。丁度良く昨日手にいれたグラフルの肉や皮を換金しなければならないという言い訳も思い付いたので、ラスキャブの作ってくれた流れに有難く乗っかる。
二人きりにする怖さもあったが、ラスキャブとアーコに関しては形容できない信頼感があったので、さっさとルージュの手を引き部屋を出ることにした。
◇
まだ商店が始まるような時間ではなかったので、人はそれほど多くない。
露店の商人たちがせっせと支度をしているばかりだ。
「…すまぬ」
歩いているうちに冷静さを取り戻したのか、ルージュは色々な感情を乗せてそう言った。
「いや、そもそもはアーコをパーティに無理に入れたオレのせいだ」
「なぜ、あんな無礼者を引き込んだのだ?」
と聞かれると、オレも弁明に困ってしまう。狼の時のオレはオレであってオレじゃない…と言っても納得しないだろう。そう思っていたら魔法を使ったのか、それとも顔で察したのかは知らないが、ルージュが代弁してくれた。
「…狼になった時の主の考えは私には分かりかねる」
「…すまん」
今度はオレが謝る番になってしまった。とてもじゃないが、アーコと仲良くしてくれなどとは言えなかった。
最寄りの商館ではなく、少し足を伸ばした場所にある商人ギルドにグラフルの素材を持ち込んだ。理由は単純で、ルージュと外を歩く時間を増やしたかったからだ。
肉の方は想定内の値段で売れたのだが、毛皮に関しては需要が高まっていたらしく、予想の倍近い売値になってくれたのは嬉しい誤算だった。ずっしりと重くなった財布とルージュの顔とを交互に見たオレは、更に遠回りして帰ることにした。
「・・・何か欲しいものはないか?」
我ながら子供染みて下手クソなご機嫌取りだと思う。
だが女の機嫌の取り方なんて何かをプレゼントするくらいしか思いつかない。それだって本来ならルージュのことを察してこっそりと買っていた物を渡す方が締まりがいいのだろうが、生憎とそんな男前の真似もできやしない。
二人で歩いて、買い物に付き合うくらいが精一杯だった。
それでも多少なり効果はあったようで、ルージュは困ったようなそれでいて優しさが垣間見えるような笑顔を見せてくれた。
「主が褒美をくれるというのなら、遠慮なくねだってみようか」
その時、オレが無意識的にラスキャブやアーコをパーティに引き入れた理由が分かったような気がした。
オレとルージュは似すぎているのだ。
魔王への復讐は言わずもなが、考え方、嗜好、性格、戦い方、遊び心がなく冗談も言えない様なところもそっくりだ。コンビネーションとしてはそれでいいかもしれないが、ことパーティともなれば更に広い視野や発想が必要になってくる。
かつてのオレのいたパーティは、偶然にも種族や価値観の違う奴らが集まって出来ていた。
オレの中にはその時に感じていた喜怒哀楽のイメージが残っているんだ・・・と思う。
自分にないモノを持っている奴につい惹かれてしまっているのだろう。
今はまだぐちゃぐちゃの状態だが、それを噛み合わせることができたなら、オレ達はもっと強くなれる。無理矢理にパーティに入れている分際で、どこまで通用するかは未知数だ。ならば、オレがまとめあげなければならない。
その為には一体どうすればいいのか?
そんな考えが頭の中をぐるぐると駆けまわっていき、一つの結論がぽろっと口から出てしまった。
「魔族の女にもてるようになればいいのか?」
どうしてそんな事になったのか、オレは自分で自分を問い詰めたい気になった。
そして隣にいたルージュは、
「は?」
と言って、冷ややかな目をオレに向けてきたのだった。
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