覗かれる勇者
ルージュの一撃で怪しげな盾が粉砕された時、異変は起こった。
盾の破片からは青白い煙が込み上げており、風もないのに森の草木は騒めき出し、気味の悪い雰囲気が辺りを包むと、ほんの少しだけ世界が暗くなったような気がした。
すると、どこからともなくケラケラという不気味な笑い声がこだました。
ラスキャブが茂みに身を潜めているのを横目で確認すると、すぐさまルージュの傍に駆け寄った。ルージュも顔を険しくし、一切の油断を取り除いていた。
ジッと、事の顛末を見定めようとした。すると、盾から込み上げていた煙が徐々に形を成していく。
ところが次の瞬間、その煙がオレ達を襲うかのような勢いで突っ込んできた。十二分に警戒をしていたので、二人とも訳なく躱すことはできたが、ぐるりと空に弧を描いた煙は再びこちらに向かってくる。
オレが剣で斬りつけて応戦すると、それは途端に爆発し、煙が辺り一面に広がった。
「くそっ。ルージュ、気を付けろ」
が、その言葉に返事はない。代わりに返ってきたのはさっきと同じ笑い声だった。
「てめえ、何者だ?」
いつの間にか、目の前には手の平を目いっぱい広げたくらいの大きさの魔族が浮かんでいた。胸が出ているということは、一応はこいつも女なのだろう。尖った両耳と、半分欠けた王冠のようなものを被っているのが目に止まった。
即座に問答無用と思考を切り替えて、剣を振り上げた。が、すぐさま煙が蔦のように絡みつき動きを封じれてしまった。そうなって初めて、得体の知れない小さな魔族は口を聞いたのだった。
「俺の封印を解いてくれてありがとよ」
「封印だと?」
「ああ。俺は何十年か前にあの厄介な盾に封じられてな、壊されるか鋳潰されるのをずっと待っていた」
「なら、目的は果たされたんだろ。とっとと失せればいいものを、なぜオレ達を襲った」
「最初はそうさせてもらうつもりだったんだがな、よく見りゃテメエはフォルポス族じゃないか。フォルポス族にはむか~し世話になってな、礼の一つでもしてやりたいと思ってたのさ」
ニタニタと逐一癇に障るような腹立たしい顔を向けていった。その話しぶりはとてもフォルポス族に好意を持っているとは思えなかった。大方、盾への封印を施したのがフォルポスの者で逆恨みをしている、といったところだろう。
「…殺すぞ、貴様」
「おお、怖い。昔も今もフォルポスの愛想の悪さは変わってないようで安心したぜ」
「さっさと、この煙をほどきやがれ」
「解ける訳ないじゃんか。それに心配しなくてもいい。厳密にはお前の仲間の姉ちゃんだったが、礼をしてやりたと思っているのは本当さ。だからお前の望みを一個叶えてやるよ」
そういうと小さな魔族は奇妙な光を放った。オレはすぐに意識が飛び、まるで夢を見ているかのような心地になった。ケラケラという笑い声が聞こえている。これはルージュと頭の中で話をする感覚に似ている。ということは、恐らくは頭の中を覗かれているということだ。
小さな魔族は、どんどんとオレの意識の奥へと潜り込んで行った。
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