戦う剣
ピクシーズとやらと戦いたい理由はテレパシーで粗方は理解した。
主ほど妖精の加護には期待などしていないが、私としても剣の化身である以上、どんな理由であれ戦う事が出来るのは好ましい事だ。
先頭を行く主が剣を抜いたのを開始の合図とした。他の…それもあんな安物の剣を代用として戦う主の姿を見るのは少々気に食わない。だが致し方ない事だ。私を使っていたのでは、いつまでたっても本領を封印していることに意味を見いだせなくなってしまう。歯がゆいが、一日でも早く私を本気で振るってくれる日を待ち望む事しかない。
◇
前衛の二体の妖精は、単独で突っ込んできた私を相手取ると決めた様だ。
目論見通りに行った。
建前は主とラスキャブに有利な状況を作ること、だが本音はあからさまな近距離戦闘タイプと戦いたかったことに尽きる。ラスキャブは連戦、しかも先ほどの猪相手よりもさらに高度な連携を要求されるだろうが、主がいれば何とかなるだろう。
それよりも、宿屋での一件がいつまでも尾を引いてならなかった。
蝿一匹と高を括ってあえなく返り討ちにされるという屈辱と醜態を、あろうことか主の目の前で晒してしまった。あの不快感が胸いっぱいに詰まっていて、実に腹立たしい。主はそんなことはひとかけらとして気にも留めていないのは承知しているが、私の誇りが許さない。
傍には八つ当たりに見えるかも知れない。
だが、今度こそは一縷の油断も見せずに戦わしてもらう。
◆
盾持ちがフェイントを入れたのち、盾の影から剣持ちが袈裟斬りにかかってきた。良い連携だ。フェイントの真骨頂は初太刀であるという事を理解している動きで、並の実力者であっても対応できるかどうかわからない鋭さもあった。
が、残念ながら並程度と評されるような強さではないと自負している。
左手からブレードを出すと、切り上げる形で応じた。見るからに時代がかかっていた相手の剣は容易く粉々に砕けてしまった。敵の武器を粉砕する感覚は何度味わってもいい。かつては敵の命を奪う事こそ至極だと思っていた。が、いつのころからか命ではなく戦意を奪いさる事にこそ快感を覚えるようになってしまった。
そう言った意味でも、相手の生死に特にこだわりを見せない主とは馬が合うと言うものだ。
剣持ちは武器を砕かれたのを見届けると、あからさまに戦闘を放棄して後ろへと下がっていった。主から届いた話によると妖精は武器を奪うか破壊してしまうとそこで戦うのを止めるのだという。ならば図らずも向こうの流儀に乗っかっていたということか。
相棒を失ってもなお、盾持ちの方は戦いを続ける気でいる様だった。怯むことなく盾をかざし体当たりを仕掛けてくる。他に得物を持っていないようなので、こうして打撃戦に持ち込むのがメインのスタイルのようだ。
一つ跳ねて相手を躱すと、両手で体重を支えて足先からブレードを出し攻撃に転じた。
しかし盾持ちは中々に反応がよく、急な横からの攻撃にも応じられてしまう。それでもさっきと同様に得物さえ壊してしまえば関係ないと考え、構わず横薙ぎに足を振るった。
ギャリンッッッ!
という鈍い金属が響いた。衝撃はあったが手応えがない。体勢を立て直して様子を見る。案の定、盾は壊れてはいない。どうやらかなり良い盾を装備しているらしかった。
盾持ちは変わらず盾を突き出し、体当たりをくらわせに来る。ならば今度は盾だけを弾き飛ばし、それを奪ってしまおう。それでも勝ちは拾えるらしいし、私の斬撃でも耐える盾というのは興味がある。
ギリギリのところで体を躱し、回転を加えながら盾の内側を思いきり弾き飛ばした。体当たりの勢いに更に余計な力が加わったことで盾持ちはゴロゴロを吹っ飛んでいった。だが、それでも執念深く盾だけは手放していない。
(妙だな。剣持ちと比べて力量に差があり過ぎる。それとも強さはまちまちなのか?)
相も変わらない体当たりをしてくる盾持ちを見て、次の手を考える。
(だったら腕を斬り落としてでも盾を奪ってやる)
全く同じように体捌きで相手の脇に入り込む。盾を持つ腕に狙いを定めようとそこに目をやると私の身体は一瞬止まってしまった。
まるで木の根のような細い管が何本も盾から生えており、それは妖精の腕に無理矢理寄生しているかのようだったのだ。
これが異常であることはすぐに分かった。寸でのところで攻撃を止め、距離を取った。
見れば主とラスキャブは無事に敵を撃破したところで安心した。私は警戒を怠らず、すぐに主に駆け寄っていった。
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