呆ける勇者
そのままの勢いで、ラスキャブは森の木の一本に激突する。木の幹はその衝撃に耐えきれず、真っ二つに折れてラスキャブと共に茂みの奥に消えていった。
オレ達は持っていたものを全て投げ捨てると、魔法で瀕死のグラフルに止めを刺してラスキャブの救助へ向かった。茂みをかき分け、声を出して探し始める。
「ラスキャブ! どこだ!?」
やがて、草の上に幹と共に転がっているラスキャブを見た。
ぐったりとしていてピクリとも動いていない。オレは治療用の魔法やスキルを持ってはいない。頼るような目でルージュに目をやる。
「私も治癒術は扱えない」
ルージュはそう返してきた。
ならばオレ達にできることは、ラスキャブを抱えて町に戻り医者に見せるしかない。だが、大きいとはいえ世界の基準で見れば田舎の街だ。魔族を診てくれる医者や術師がいるとは到底思えない。
それでもオレはラスキャブに駆け寄り、身体を起こそうとした。
だが、当の本人はむくりと起き上がり目を丸して言った。
「び、びっくりしましたぁ」
オレもルージュも、まるで何事もなかったかのように起き上がったラスキャブを見てあべこべに固まってしまった。しかしラスキャブはこっちの事などお構いなしにすくっと立ち上がり、服を直したり埃をはらったりしている。
「…ラスキャブ、何ともないのか?」
「え? は、はい。背中から来られたのでびっくりはしましけど」
「「…」」
オレ達の思考が追い付かない。そんな様子をラスキャブは小首を傾げて伺っていた。
「…手負いだったから見た目ほど突進の威力がなかったのか?」
「いや、それはあるまい。現にラスキャブのぶつかった木はへし折られている。少なくともそれだけの威力はあったということだ」
「という事は…どういう事だ?」
「単純に考えるならば、ラスキャブの素の防御力が見た目に反してとてつもなく高いという事だろうな。服はあちこち破れているのに、ラスキャブ本人は傷すらついていない」
「え? あああ!! すみません、折角買って頂いたばかりの服なのに…」
そう言って服を気にして慌てふためくラスキャブを見ていると、何かの糸が切れてしまったようで漏れるような笑いが出てしまった。
状況から判断するに、ルージュの言う通り相当な防御力があると考えるのが一番自然だ。先の闘いでの攻撃や素早さを鑑みるに、魔法で強化している風ではない。これは単純にラスキャブの生まれ持ってのポテンシャルなのだろう。
屍術は一応は魔法に属する。今回は様子見で前線に出したが、ゆくゆくは最後衛でパーティ全体をフォローをする役回りを頼もうかと思っていた。が、この防御性を後衛にするのは少々惜しい気もする。
ともあれ初のパーティ戦にしては、仕留めた獲物も得られた経験値も中々のものだ。
グラフルの解体を終えたらなら、できればこの森でもう一戦してから町に戻りたい。どうしたって疲労の心配よりも経験の少なさの心配の方が買ってしまう。
だが、パーティのメンバーに対する心配は一片もなかった。むしろ、オレの心は高揚していたのだった。
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