表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/338

油断する勇者

 オレとラスキャブで各個撃破を狙いたかったが、戦う意思を見せた二匹がまとめてオレを狙い突進してきたのでプランを変える。


 グラフルの二匹くらいなら真正面から突進を受けたとしても持ちこたえるくらいは朝飯前だ、という慣れという呪縛に一瞬身体の動きを奪われてしまった。結果として、回避する最良のタイミングを掴めたので良しとするが、一刻も早く駆け出しの頃の自分を思い出さなければならない。この感覚のズレを直さないと本当に死んでしまう。


 体を捌いた流れでラスキャブに目をやる。反応はできているがどうすれば良いのか分からないという様子は明白だった。


「ラスキャブ、オレがうまく二匹を引き受ける。脇腹に一撃入れる隙を伺え!」


 本来なら作戦を大声で叫ぶなど愚の骨頂なのだが、言葉を理解していな下級の魔獣相手であれば大した問題にならない。


グラフルがラスキャブの事を警戒せず、その上で攻撃ができる絶妙な位置取りが難しいが、ここは体の動きよりも経験が物を言う、つまりはオレの腕の見せ所だ。


「こいつらの最大の攻撃は突進だ。先に前の奴を倒したら後からの攻撃に対応しずらい。二匹並んでいるなら後方の奴から確実に仕留めていけっ」


「は、はいぃっ!」


 情けない返事が森に響いたが、構えは中々筋が良いものを感じる。一先ずはラスキャブを信じ、囮役に徹して様子を見てみよう。


 投擲や現時点では最大威力の不甲斐ない火焔魔法を当てて、グラフルたちの関心をオレに向ける。次第に時計回りに森の中の平地をぐるぐると走るだけの動きになった。お膳立てとしては十分すぎる程十分だろう。


 ラスキャブもそれは感じ取ったようで、緊張ではなく集中で顔が強張っているのがわかる。今のあいつの得物は槍だ。横から攻撃するのにはもってこいの状況だった。


「やあっ!」


と、少女らしくも気合の入った高い声と共に、突きがグラフルの横っ腹に決まった。見たところ、心臓から大きくずれていて致命傷にはなるだろうが即死するほどのダメージには至っていない。


 魔獣に限らず、野の獣は手負いと子連れが一番危険な状況だ。残った一匹にも注意しつつ、ラスキャブにも気を配る。


 が、オレのすぐ後ろにつけていた残りのグラフルが仲間がやられた事でそちらに気を取られていた。ラスキャブのため仕留めるのは止めようかと少し躊躇したのだが、やはり倒せる敵は倒してしまうことにした。


 オレは素早く横に逸れ、横薙ぎに新調したばかりの剣を振るった。案の定、今のオレの力では両断することは叶わなかったが、傷くらいならつけられる。怯んだ隙を逃さず、その傷を正確に狙いって今度は諸手突きを見舞ってやった。


一撃で皮や筋肉を貫くほどの腕力が無くなってしまっているので、苦肉の策として試してみた方法だが、上々の成果だ。しばらくは常用する技になるだろう。


 一方ラスキャブの方は、再び慌てていた。刺した槍が抜けないせいで、グラフルと綱引きをしている。が、その内にグラフルの方が力尽きたのか、横たわる様に死んでしまった。それに合わせてラスキャブも肩で息をして、その場にへたり込んでしまった。


 ◇


 ふと、ルージュが待機していた場所に目をやる。が、そこにルージュの姿はなかった。


「ルージュ? どこだ?」


「こっちだ」


 と、声のした方に目をやる。すると、一匹だけ逃げ出したグラフルを肩に担いで戻ってくるルージュがいた。


「売れば金か、少なくとも食料にはなるだろう?」


「ああ。助かるよ」


オレ達のフォローをしながら、狩りを行える実力には素直に感服だ。全盛の力を取り戻した上、ルージュと共闘することを夢想するだけで心が躍る。


 力が封じられている以上、ルージュのような圧倒的な強さを持つ仲間がいると精神的な余裕が持ちやすい。とりわけラスキャブはオレ以上にそれを実感しているだろう。それが証拠に、へたり込んでいるラスキャブはルージュの姿を見た途端にホッとしたような笑顔を見せた。


 ラスキャブはそのまま休ませて、オレとルージュは仕留めたグラフルの解体をやってしまうことにした。肉と毛皮、牙、骨には需要があるが、内臓はいち早く取り除くに限る。






 だが、その時にオレ達の間に明白な油断が生まれた。


 それを魔獣は見逃さなかった。


オレとルージュは殺気を感じ取ることはできた。しかし完全に反応が遅れた。


 槍が刺さったままのグラフルが、いつの間にか息を吹き返してラスキャブを目掛けてその巨体を突進させてきていたのだ。


 「「ラスキャブっ!!」」


 と、二人とも声を上げて危機を知らせる事しかできなかった。


 ラスキャブの華奢な体はグラフルの体当たりをもろに喰らい、何の抵抗もなく吹き飛ばされてしまった。


読んでいただきありがとうございます。


感想、レビュー、評価、ブックマークなどして頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ