ひらめく勇者
何が起こったのか全く理解できず、ただただ三人そろって呆然としていた。
が、すぐに放っておいてよい事態ではない事だけを判断して、蘇った蝿の後を追いかけた。とは言っても狭い部屋の中ならいざ知らず、吹き抜けもある廊下に出た一匹の蝿を見つけるのは困難を極めた。
廊下には宿の者や、他の宿泊客も少し残っていたので戸の突き破られる音に誘われて続々と顔を覗かせていた。
「ちょっと、何の騒ぎですか? 扉まで壊しちゃって」
如何にも厄介事に面倒さを覚えている宿の男がこちらに近づきながらそう言った。うっかり本当のことを言ってしまいそうだったオレが口を開く前に、ルージュが手早く答える。
「我らも分からぬ。突然攻撃された」
一応は責任を逃れられるような嘘をついてくれた。
ざわつく観衆を尻目に、少し離れた廊下の壁が同じような音を出して貫通ひした。そこでいよいよ周りの連中も悲鳴を上げながら警戒態勢を取った。原因に心当たりのあるオレ達三人だけが冷静に穴の開いた部屋へと駆けつけ、中の様子を伺った。
空き部屋だったようで中には誰もいない。
オレ達はこれでもかと顔と眼球を動かし、蝿の行方を追った。
「見つけた」
ルージュがそう口ずさむや否や、飛び掛かって先ほどと同じ手刀を喰らわした。鼻であればオレの方に分があるだろうが、ルージュはとてつもなく目が利くようだ。
オレもラスキャブも、飛び掛かるルージュの姿を目視して一安心した。が、騒動は収まらなかった。
その蝿はルージュの手刀を弾き返してきたのである。
オレとラスキャブもそうだが、一番事態を飲み込めなかったのはルージュだった。普通なら仮に体勢を崩されても瞬時に立て直せる実力はあるはずなのに、まるで抵抗することなく吹っ飛んできた。
何とかルージュを抱きしめるような形で受け止めることはできたが、頭の中には焦りと混乱しか残っていない。
「な、何なのだ、こいつは」
蝿に考える頭があるのかは知らないが、分が悪いと判断したようで、再び壁を突っ切り隣の部屋へと入って行った。だが、今度の部屋は有人だったようで、すぐに叫び声が聞こえてきた。
ラスキャブの仕出かしたことで負傷者を出す訳にはいかない。
オレはルージュをラスキャブに任せて、隣の部屋へ蝿を追いかけた。
そこには如何にも高級な身なりをした男と従者らしい女がいた。突然の事にかなり混乱しているのは明白だった。助けたい気持ちは山々だが、流石にルージュを軽々と吹き飛ばす存在に安易に立ち向かうことはできない。必死に思考を巡らす。
(こんなところで屍術を安易に試すべきじゃなかったか・・・何が原因なのかさっぱり分からん。もしかするとラスキャブの魔法は屍術とも違う何かなのか)
自分で考えを巡らせた中に出てきた「屍術」という単語に、オレは反応した。
(待てよ。強さは別として仮に本当に屍術だったとしら、あの蝿もゾンビ、つまりはアンデットって事か?)
そう過ぎった時、一つの低級火焔魔法を思い出す。アンデットに特効を持つ魔法だが、それなら今のオレの魔力でも扱えるはずだ。
オレはダメ元で蝿に向かってその魔法を繰り出してみた。
すると。
結果は上々、アンデットとなっていた蝿は燃え尽きて灰になってしまった。
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