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戸惑う勇者


 不完全燃焼のもやもやを抱えながらも、宿へと戻っていった。


「何を話していたんだ?」


「今後の事についてだ。今なら無条件で解放してやるから、逃げたければ逃げろ、とな」


 やはりそうか。どう伝えるべきか思案あぐねいているところに助け舟を出してくれるのは本当にありがたい。そしてつくづく闘う以外に能のない男だなと実感する。


「ラスキャブの反応は?」


「私はラスキャブの怯えるか驚く以外の反応を見た事がない」


「まあ、出会って三日も立っていないんだから無理もない」


「・・・ここで別れることを思い立つのならば、何故ラスキャブを引き入れたのだ? 召喚士という職の戦術的価値だけだとは到底思えないのだが?」


「それは…」


 結局、自問自答も正解が出ず仕舞いだった。だからオレには正直に胸の内をいう他ない。


「それはオレも自分に聞きたい質問だな」


 ◇


 部屋へ戻ると青い顔をしたラスキャブが待っていた。まるで刑を執行される手前の死刑囚のような出で立ちだった。


「ルージュから大まかな話は聞いた。オレも同じ意見と思ってくれていい。オレの思い付きに付き合わせて悪かった。これからの事はお前の判断に委ねる」


 そういうとラスキャブはきっとオレ達二人を見据えた。その瞳に宿っている確かな気迫に少々驚いてしまった。そして言った。


「ワタシは…お二人について行きたいです」


「「…え?」」


 思わず二人で声を重ねてしまった。あり得ないと思っていた答えだったからだ。


「き、記憶がぼんやりとしたまま、あの森にいるのは怖かったですし、不安でしたし、寂しかったです…お二人と一緒にいるのも怖いですし、不安な事も多いですけど、でも、ずっと一人でいるよりも安心しましたし、楽しいなとも思ってました」


「・・・」


「い、今すぐというのはむ、む、難しいですけど、絶対にお役に立って見せます。だから、お願いします。ワタシも連れて行ってください。もう、一人ぼっちは嫌です・・・」


 危険が伴うとか、魔王に挑むというような脅し文句がいくつも頭に浮かんだが、それを口にすることはしなかった。覚悟ある申し出には、こっちも覚悟をもって応えなければ無礼だ。


 チラリと目を合わせたルージュも黙って頷き、ラスキャブに近づいた。


「よく分かった。それならばお前は我らの正式なパーティだ。我らに従う者には絶対の庇護を約束しよう」


「あ、ありがとうございます・・・」


 こうして新生したパーティに一番目の仲間が加わった。正直、このまま分かれてもいいと強がりを通していたが、実際問題彼女の持つ召喚術は旅の序盤ではとても頼りになる。戦闘においては問題はないとはいえ、それだけでは立ち行かない問題は数が多い。


 話が上手く纏まろうとしていた。だが、そうは行かなかった。


 恐る恐る手を挙げたラスキャブが、いかにも申し訳なさそうに言う。


「と、ところで。言い忘れていたと言いますか、言うタイミングがなかったことがありまして・・・」


「なんだ?」


「あの、ワタシ・・・『召喚士』というヤツではないんです、多分・・・」


 オレは耳を疑った。前に戦ったクローグレは幻覚などではないし、実物を操作していた訳でもないはずだ。召喚したのでないのなら一体何だったというのか。


「どういう事だ?」


 ラスキャブはやはり申し訳なさそうに答えた。


読んでいただきありがとうございます。


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