説く剣
主はえらく神妙な面持ちで何かを考えているようだった。と言っても、目線の先にラスキャブがいるので、つまりは彼女に対しての事なのだろう。
ともすれば、この先の旅路に信念も目的もないラスキャブを悪戯に連れまわすのは如何なものか、などという不毛な考えを巡らしているに違いあるまい。
主の中に妙な優しさというか不合理さが垣間見える時がある。
それが発露するきっかけは何なのだろうか。判断をするには主のことを知らなすぎる。共に理解を深めるという意味でも、やはり噂の真相を確かめに迂回するというのは賛成だった。
考えることは他にもあるが、まずはラスキャブの問題を片付けることにしよう。
◇
私は不服ながら主に部屋を出ていてもらうように頼むことにした。
「主よ。ラスキャブと二人で話したいことがある。すまぬが席を外してもらえないだろうか」
「え?」
急に名前が出てきたラスキャブがそんな声を出した。
私の考えていることまでは伝わらなくとも何かしらの意図があることは分かったようで、特に反論することもなく出て行ってくれた。主が出て行ったのを見届けると、私はラスキャブの隣に腰を掛けた。
「さて、お前に聞きたいことがある」
「な、何でしょうか?」
「そう強張るな…と言っても無理だろうな。主も私もお前の目にはさぞ恐ろしく映っているだろう? そんなお前をこれから連れまわすのはどうか、と主は考えている。お前の召喚士…と言ったか? その術の利用価値だけで我らはお前を共に連れているに過ぎん。端的に言えば、恐怖で従わせているだけではこの先の旅についてこれなくなるだろうと主は懸念しているのだ。」
「・・・」
「全く、魔族相手にそんな心配をする必要もないし、そもそもそんな事を考えるのであれば始めから共連れになど引き入れなければよいものを・・・。表には出さぬが、魔王と闘いたいばかりに気持ちが急いているのだろうな。気持ちは痛い程分かるが、物には段取りというものがある」
「つまりワタシはここで捨てられるということでしょうか? そ、そ、それとも殺、殺され」
「そう言っているのではない。今ならお前を失っても我らにとって損害が最小限なだけだ。恐怖支配は瓦解し易いから、これから先、主はある意味対等な関係……言うなればそう、一つのパーティを組むことを望んでいる。奴隷や家来などではなく、仲間を欲している。だが、我らとお前の関係はそうではない。主はきっとお前を開放するだろう。その後、何処へ行くとしても我らは関与はしない。だが、主はお前が仲間として同行してくれるというのであれば拒むこともない。寧ろ喜ぶだろう。単純にお前の意思を確認したいだけだ」
と、言ってはみたが無理だろうなと諦めもしていた。
ラスキャブにとって見れば、我らに同行すべき理由が一つもない。私がラスキャブの立場であればついて行くことは考えもしない。急にそんな事を言われて猜疑心は払えぬだろうが、本当に何もせずに旅立ってしまえばその内に嫌でも納得するだろう。
大局に拘り、小局を見誤ったツケと考えれば安いものだ。私も、主も今回の事で落ち着きを取り戻すことができた。今後もラスキャブの事を引き合いに出せば、多少なり頭を冷やすことができるはずだ。そういう意味では、彼女は大いに役に立ってくれたと言ってもいいだろう。
私は立ち上がり、主を呼びにいった。
「お前の考えを主に伝えろ。どんな答えだろうが、私が誓って命の保証をする」
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