ほっとする勇者
「ルージュ、アーコ。ピオンスコはどうなってたんだ? 何かに気が付いた様子だったが」
一足遅れてからベースに戻ってきたルージュ達はずいっと何かをこちらに見せてくる。
「これだ」
「それは…ピオンスコの短剣の鞘とベルト?」
いや違うな。何か種があるとするならば、十中八九そこに納まっている新調された短剣にあるのだろう。案の定、ルージュはソレを抜いて懇切に説明してくれた。
「トスクルの靴とピオンスコの槍を見ているから察しがついているだろうが、これにも私とアーコが細工を施している」
「まさか理性を飛ばして狂戦士にさせる、とかじゃありませんよね」
オレの頭に過ぎった事をトスクルが先んじて発言した。狂戦士化は魔族が好んで使う捨て身の魔法。何度も辛酸をなめさせられた記憶が反芻される。が、まさかこの二人がそんな非道的な魔法付与をするとも思えない。そして思った通り、ルージュはそれを否定した。
「いやまるで違う。これには『ドレイン』能力を付与していた」
「ドレイン?」
「シージライノの角にはもともと吸血機能があっただろ? アレを更に強化してみたんだ。具体的には刀身が接触した相手の魔力を吸い取って自分の体力に返還しちまえる」
「ほう?」
「先の模擬戦でラスキャブは私の剣のほとんどをコレで防いで見せた。その都度、私の魔力は吸い取られてピオンスコに還元されていった」
「しかし戦闘のほとんどがラスキャブの訓練に使われたせいでピオンスコは体力の消耗ができず力を持て余してしまった、という事か」
「そういうことになるな。本来は体力の消耗を補填して裂傷の治癒を早めるために作ったのだが、まさかそれが毒液の生成に活用されるとは思わなかった」
「素直に俺達の想定不足だな、こりゃ」
なるほど。納得したし、ピオンスコの戦闘スタイルにうってつけの武器に思えてきた。
奇襲と超接近戦が主になるピオンスコはそれだけダメージを受ける確率が上がる。しかもそうなる場合は往々にして毒での攻撃が成功しなかった場合だろう。ともなれば敵の注意は必然的に尻尾に向かう。そこに魔力を奪う短剣を保険として忍ばせて置けば、一方的な消耗戦に持ち込めるという訳だ。
そこまで説明すると朦朧としていたピオンスコが息を吹き返し、ずりずりと這いながらこっちに近づいてきた。先ほどに比べれば大分顔色は良い。
「み、みず~」
「水か。少し待て」
ルージュはそう言って服の装飾を加工してコップを作ってやった。そこに魔法で作った水を入れると甲斐甲斐しく抱きしめてやりながら介助をしている。ひとかたならぬ申し訳なさを感じているのだろう。
「ぷは~。おいしい~」
「体は大丈夫か? つい説明を怠ってしまった、すまん」
「大丈夫だよ。ちょっとビックリはしたけど」
「そうか」
ピオンスコはそれからどんどんと回復していった。決して強がりなどではない様子でひとまずは安心だ。
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