悔いる勇者
オレは氷で心臓を刺されたかのようにハッとした。そしてトスクルの言葉の真意を知ったラスキャブとピオンスコの二人は互いに顔を見た後に、覚悟を決めたような表情をオレに向けてくる。
途端にオレは自分の幼稚さや三人の覚悟を見誤っていたことを恥じた。
「あなたはさも当然で当たり前の事のように様々な敵と戦ってきていますが、それがどれだけ記憶も家族も家も何もないアタシ達を助けてくれていると思っていますか? 今ここで服を脱いで体を差し出せと言えば喜んで奉仕させて頂きます」
「な、何を!?」
「勿論、今のは冗談です。ただそのくらいの覚悟は持っているんです」
トスクルはふうっと一息ついて隣にいる二人を見た。
「ほら二人とも。頭がぐちゃぐちゃかもしれないけれど、言いたい事は言えるうちに言った方がいいよ」
「うん…」
するとトスクルに触発されたラスキャブが震える喉を何とか鎮めて、決意を乗せた声で言う。
「正直、トスクルが言ってくれたのがほとんど私の気持ちです。不満なんて何も持ってません…けど口でそう言ってもザートレさんには伝わらないんですよね」
「まあ、な」
「ルージュさんが羨ましいです。魔法を使ってザートレさんと心から繋がれて…けどきっとそんな魔法がなかったとしてもザートレさんはルージュさんの事を本当に信頼しているでしょう? 私達には絶対に辿り着けないくらいのところでお二人は繋がっているんです。それが悔しい、です」
「悔しい?」
「はい。悔しいです」
情けない事にオレは一体何と声を掛ければいいのかを完全に見失ってしまった。ただただラスキャブの話の聞き役に徹するしかない。それは向こうにも伝わったのか、ラスキャブは必死に言葉を紡いでくれていた。
「だから、ザートレさんがいざという時は私のことを殺すと言ってくれて、本当にほっとしました。おかしい話ですけど…けどやっぱりザートレさんが私のことで剣を鈍らせるような事があったら、それこそ死んでもお詫びできません」
「ふふ。普段からこのくらいハキハキと喋ればいいんだよ、ラスキャブ」
「そ、それは無理だよぉ~」
今の決意が嘘のようにいつものラスキャブに戻ってしまった。しかし今のこの会話と吐露した本心までもが嘘になった訳ではない。オレはいつしか両手の拳を堅く堅く握りしめていた。
一気に気まずくなったのかラスキャブは更に横にいたピオンスコに話題を振って誤魔化し始める。
「ピ、ピオンスコは? ザートレさんに言いたい事はないの?」
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