わからない勇者
休憩がてらに四人で賄いを食べていると、ルージュとアーコが戻ってきた。宣言通りシージライノのツノをうまく短剣と槍とに加工している。武器を二つも作るにはあり得ない程短時間だが、この二人の前ではそんな常識はあってないようなものだろう。
(よう。できたぜ。ちょっと持ってみてくれ)
アーコは案の定、短剣をピオンスコに槍をラスキャブに手渡した。ピオンスコはおもちゃを与えられた子供のように嬉々としてナイフを振るったり、逆手に構えたりしたりとはしゃいでいる。
反面、ラスキャブはおっかなびっくりと槍が周りにぶつからないように気を配っていた。ピオンスコと違い槍はおいそれと構えたり振るったりできないから仕方がない。だが本人は嬉しそうな顔をしているからきっと喜んでいるのだろう。
それよりもオレはルージュが持っている靴の方が気になった。
(その靴は?)
(これか? ラスキャブとピオンスコだけ武器を新調したのではトスクルが不憫だと思ってな。急ごしらえで作ってみた)
(え。私にですか?)
(ああ。シージライノの皮を鞣して作ってみた。そこに私とアーコが魔力を込めて細工をしてみた)
二人はニヤリと笑った。急ごしらえと言ってはいるが二人にとっての自信作らしい。
(トスクル。履いてみな)
(分かりました)
トテトテと近寄りトスクルは靴に足を通した。しかしその途端に怪訝な顔つきになってしまう。
「重っ」
テレパスを忘れ、つい思った感想を口にしてしまっている。シージライノの皮は頑丈さの大小にとても重量感がある。ひょっとしたらと思っていたが、どうやらオレの予感は当たっていたらしい。
(せっかくですが、これではジャンプもままならないので私の持ち味がうまく活かせませんよ)
(いや、逆だ。お前の跳躍力を十二分に活かすために作ったのだ。足に魔力を集中してみろ)
(こうですか…え?)
トスクルは急に驚いた表情を見せる。ポーカーフェイスが常の彼女が表情を変えるのは珍しい。つまりはそれほど予想外の何かに気が付いたのだろう。
(どうだ?)
(…そうですね。面白い感覚ですが、ここではうまく活かせません。一度外に出てみてもいいですか?)
(無論だ。調整の必要があれば言ってくれ)
と、こちらには何のことかまるで分らない会話を終えると宣言通り外に出て行った。少なくとも部屋の中では差し支えのある何かを試したいことだけはわかった。浮足立つトスクルを先頭に、オレ達は一度宿の外に出ることにした。
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