呆れる勇者
厨房を後にした二人の事を気配だけで追う。するとどうやら宿屋を後にするつもりらしい。てっきり隣の部屋に出も移動する程度だと思っていたので意外だった。
するとトスクルがオレの疑問に答えるかのようなタイミングで真相を予測した。
(裏手に同じく投棄された武器屋がありましたが、そこに向かわれたのでしょうか?)
(武器屋?)
(は、はい。お片付けの途中に見つけたんです。ルージュさんは碌なものは残っていないと言ってましたが、ここと同じように品物はほとんどが置きっぱなしでした)
(まあ料理は厨房でするように、武器を作るなら鍛冶場に行くのは当然か。あいつらなら既存の武器を潰して新しくするなんて芸当は朝飯前だろう。短剣と槍ってことはラスキャブとピオンスコは期待していてもいいかもしれないな)
(えー。それだとトスクルだけ何もなくて可愛そうだよ)
(大丈夫、ピオンスコ。それに私はあまり強くなると困るの)
(ん? 何故だ?)
強くなりたくないというトスクルの感想にオレは思わず反応してしまった。一介の戦士としては理解不能な感情だし、共に魔王を討つべく組んだパーティとしては聞き捨てならない言葉でもあったからだ。
しかしオレが尋ねるとトスクルは悪戯に笑った。
(だって強くなりすぎると父さんに守ってもらえなくなるでしょ?)
(…まだ続いていたのか、ソレ。テレパシーで会話ができればそれでいいと結論が出ただろうに)
(だってせっかく思いついたんですから、言ってみたいではないですか。私の予想では実はアーコさんとルージュさんも一度は呼んでみたいと思っていますよ)
(お前…このテレパシーでの会話は全てあいつらに筒抜けなんだぞ)
オレは裏手にあるという武器屋に視線を飛ばした。なんなら壁を破壊してでも文句を言いに来そうな二人なのだから。
(おや。そう言えばそうでしたね。私は切り殺されたくないので父さんに守ってもらいます)
(全く…)
しかし彼女らの年齢を思えばあながち冗談や揶揄い半分で言っているのではないかもしれない。自分と照らし合わせてみれば親には反発もしていたが、やはり頼りにして絶対的な存在と感じていた年齢だ。それを記憶を抹消され、見知らぬ土地で戦争の道具にされていたともなれば確かにオレに父性を感じて、寄り添いたいと思うものなのかも知れない。
(しかしオレばかりでなくてもいいのではないか? それこそ怒られるだろうが、ルージュやアーコに母性を感じて母親と思ってみてもいいかもしれないぞ)
オレがそんな事を言うと三人がキョトンと不思議そうな顔になり動きを止めた。
(どうした?)
(母親って…なあに?)
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