疼く勇者
腹を上に見せて転がるなど生涯で初めての経験だったのか、シージライノは四肢をばたつかせこそするがうまく起き上がれないようだった。当然その隙を見逃すオレ達ではない。
ミラーコートを付けたピオンスコが動く。すると一瞬だけ陽炎のように景色が揺らめいた気がした。
そして次の瞬間には喉元から血を吹き出してシージライノは絶命する。足や背が堅い外皮で覆われていたので腹や首も堅いのだろうと思い込んでいた。ピオンスコはそういった経験値や常識にと囚われなかったからこそ容易くシージライノの弱点を見つけられたのだろう。やはり戦闘のセンスがずば抜けて高い。
と、感心は一旦置き、オレは戦いに戻る。まだ幼獣が残っている。シージライノの弱点が個体差のモノなのか、それとも種族共通のモノなのかも確認しておきたい。
(ピオンスコ。今と同じ要領で向こうも倒すぞ)
(オッケー)
そうして再びターゲットに目をやる。すると幼獣は力任せにこちらに突進してくるところだった。
好都合だ。あの勢いを逆に利用する。
(オレの少し後ろについていろ。奴をぶん投げてやる)
(! わかった!)
オレは四足に力を込め、幼獣に正面から突進する。相手も引く姿勢は見せない。ならば後はタイミングの問題だ。オレは距離を見定めてここぞというところでフォルポス族の姿に戻った。
目の前の相手が急に変わったことに幼獣は少しだけ怯む。その隙をついて身体にアーコの魔力を付与させ、ついで足元にも盾を展開する。それによって少しだけ浮かんだ幼獣のツノを掴むと勢いを利用して投げ飛ばした。吸血器官のあるツノに素手で触るのは危険だったが今はアーコによる防護被膜があるから問題ない。
驚くほど簡単に宙を舞ったシージライノの幼獣は抵抗空しくピオンスコによってトドメを刺された。精神がリンクして格段に連携が取りやすいとは言え、それを忠実に遂行できるピオンスコのポテンシャルには脱帽だ。
ともかく無事にシージライノを幼獣込みとは言え二体も仕留めることができた。先ほど見つけた畑の野菜や果実と合わせれば今日の収穫としては十二分と言える。戦闘においてもかなりの発見があった。アーコの能力だけでここまで戦いの幅が広がったのだ、ここにラスキャブとトスクルと加え、更にルージュを振るうことができるのなら戦い方の幅は無限大に膨れる。
自分で保存食を作って旅支度を整えると言っておきながら、オレはもう次の戦いがやりたくて仕方がなかった。
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