ひっくり返す勇者
オレは旋回をしながら思考を整理する。アーコの能力は見た目から盾と判断していたが、必ずしもそうとは限らないようだった。用途として盾のように使っていたが、アレはアーコの魔力を体外に具現化しているに過ぎない。今しがた拳にソレを纏わせて格闘技に応用できたのがいい証拠。盾であればあそこまで変幻自在には扱えないだろう。
つまりアーコの能力は『付与』と分類される類のモノ。そう定義付けられた時、オレの中で一気に視野が広がった。
そうしてアーコの応用法が思いつくと、居ても立っても居られずそれを実践すべく動き出した。
進行方向をシージライノに変えると、一直線に突進をする。そしてタイミングを見計らってアーコの魔法を爪と牙に付与させた。まるで歯が立たなかったであろう攻撃も付与のおかげで多少は効果が見込めた。しかし元々の攻撃力が大したことないせいで、効率的とは程遠いダメージだ。
ならば…。
(ピオンスコ、もう一度挟み撃ちだ。オレが奴の気を引くからその隙に攻撃しろ)
(わかった)
オレはピオンスコの短剣にアーコの魔力を込める。その刹那、オレの背中に衝撃が走ったかと思うと途端に重さがなくなった。軽やかに飛んだピオンスコは空中でミラーコートを発動させながらシージライノの向こうに着地する。オレはその隙に今度は尻尾にアーコの魔力を付与してみた。
元々堅かった毛が金属のように固くなった。オレは体さばきでその尻尾を鞭のように振るいシージライノの顔面に叩き付ける。堅い皮膚に爪牙が通らなくても、衝撃まで軽くすることはできないだろう。それに仮に通用しなくてもピオンスコから気を逸らさせることができれば目的は果たせる。
その時シージライノの絶叫が鼓膜を揺らした。
見ればピオンスコの短剣がシージライノの足の関節を切り裂いていた。
なるほど。関節は曲がる構造上、他に比べて脆弱だ。知っているのか、それとも本能的に相手の弱点を突くのが上手いのか。
そんな事を思っていると、ピオンスコの声が頭に響く。
(ザートレさん。このシージライノ、どうにかしてひっくり返せない?)
(ひっくり返す?)
(そう。こいつ多分、お腹が弱点だよ)
(! よし、任せろ!)
ピオンスコの言葉を信じ、オレはアーコの盾魔法をシージライノの下に潜り込ませた。ついさっきピオンスコに使った遠隔操作と同じ要領だ。そして機を見計らい、ドーム状に隆起させる。するとシージライノは戸惑いを見せながらも容易く腹を上にしてひっくり返った。
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