腹ごしらえする勇者
森の奥まで入ったオレ達は採取する獲物について考え始めた。保存が利く食べ物を見つけるのは最低条件として、栄養やバラエティも考慮したい。食事に満足感を得られるかどうかは野外活動でのストレスに直結する。可能な限り美味しいものを用意したい。
(そうなると…場所を加味すりゃ肉と果物、木の実なんか?)
(ああ。あとは野草香草の類だな)
(見分けはつくのか? というか『螺旋の大地』の生態系が分かるのかよ)
(前に訪れた時も似たような準備をした。街が崩壊している分、難易度は上がったが全くの未経験じゃないのが救いだな)
そんな事を考えると昔の記憶がぽっと頭の中に思い出された。
(そうだ…シージライノを探そう)
「しーじらいの?」
ピオンスコが頭に過ぎった単語を口にする。そしてうっかり声を出してしまった事に気が付いたのか、慌てながら両手で口を覆った。
(しーじらいのって何?)
(『螺旋の大地』に生息しているサイなの名前だ。凶暴でとてつもなく強いがその分、肉はうまい。酒にも合うぞ)
(いいねえ。早速捕まえに行こうぜ)
目的が定まったオレ達は更に森の奥へと進む。
ゴトワイの街の位置から考えてシージライノの生息する草原はもう少し北西にあるはず。八十年前と変わっていなければの話だが。
道すがら人工的に作られたような果樹園の残骸を見つけた。その近隣には数年に渡って放置されている畑もある。どう考えてもゴトワイの街と共に放棄されたものと見ていいだろう。
オレ達はありがたくそれを頂戴することにした。同時に野草も大量に手に入れられた。手を付ける者がいなくて伸び放題だ。ゴトワイの街が放棄されたのは悲しい事だったが、それはそれとして食料として使わせてもらう。
葉物、根菜、果実などなどが山のように取れた。宿屋から適当に持ってきたシーツや縄でくくるが足りないかもしれない。それにシージライノを仕留めた時の事も考えると、流石に全てを持ち帰るのは難しそうだ。
(ひとまず持ち運べるようにしておいて帰りに取りにこよう。シージライノを仕留めるのに荷物が邪魔になるからな)
(オッケー)
(こんだけあるんだから少しくらいいだろう)
そう言ったアーコを皮切りに三人で果物を適当に齧った。歯ごたえは中々に良かったがやはり人の手が入っていない分、大味に感じられる。しかしマズいわけじゃない。現にアーコもピオンスコも文句を言わずに頬張っている。シージライノを仕留める前の腹ごしらえには丁度いいだろう。
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