父になる勇者
「ほら、ピオンスコ。呼んでみな」
「うん!」
座っていた椅子から跳ねるようにして立ったピオンスコはトットットと足音を鳴らしながらオレの前にやってきた。
「お兄ちゃん!」
「…」
「おい。何を呆けてんだ。感想は?」
「いや感想と言われてもオレはピオンスコの兄じゃないし、歳だって叔父くらいは離れているだろう。下手な芝居を見せられているような気がするだけで、特に感想と言われてもな」
オレが思った通りの感想を述べた時、トスクルが天啓を得たように声を出した。正直、今まで見てきた中で一番テンションが高かった。
「それです!」
「な、何がだ?」
訳も分からずしどろもどろになってしまったオレにトスクルは至って真剣に言う。
「兄と呼ばれるほど年が離れている、というのでピンときました。年相応がお望みでしたらお父さんと呼べばいいのです」
「そっか!」
「そっか、ではない。段々話が逸れて行っているぞ、真面目に考えろ」
「いえ。私は真面目ですよ、ルージュさん。これほど私達のことを気遣って、時に優しく時に厳しく導いてくれるザートレさんを最も的確に表現するのに父という言葉以上のモノはありません。おまけに魔族の姿なら言わずもがな、フォルポス族の姿でも養父とすればどれでも通用する呼称です」
「な、ならば狼の時は?」
「狼に育てられたことにすればいいのです」
「どこの野生児だ!」
「まま、落ち着けって…っくく」
アーコが笑いを噛みしめながら二人を制止する。
「ここは多数決で決めよう。お父さんがいいと思う奴、挙手」
そう言うとアーコとピオンスコ、トスクルが手を挙げた。ルージュは腕を組んで頑なに拒んでいたが、意外や意外、ラスキャブも申し訳なさそうに手を挙げていることに驚いていた。
「ラ、ラスキャブ!? 貴様もか」
「す、すみません。でも確かに父親っていうのは何だかしっくりできてしまって…」
「はい。四対一で~す。お父さんに決定!!」
アーコが煽るように言った。ギリッと歯を噛みしめる音がオレの耳に入る。それが誰の者だったからは火を見るよりも明らかだ。
「さってと。どう呼べばいいんだ? 父親なんていないし、いたとしてももう記憶の彼方にすっ飛んで行っちまってるぜ」
そう尋ねられた三人は三者三様に父親の呼び方を口にする。
「アタシはやっぱりお父さんかな」
「私は父さんって呼びたいです。ラスキャブはパパでしょ?」
「な、何で分かったの…?」
「うーむ。俺はどれも柄じゃないな…強いて言えば親父かな、やっぱ」
きゃいきゃいと全員のテンションが上がっていく。オレとルージュの二人は疎外感をひたすらに味わっていた。
互いに顔を見合わせてどうにかこの流れと四人の悪乗りを抑えようと考えている。するとその内に父親の呼び方の論議のお鉢がルージュにも回ってきた。というよりも四人の中ですでに決まっていたようなものだった。
「ルージュは…父上だろうな。っぷ」
「ぴったりですね」
「うん。似合う似合う」
ルージュは拳を堅く握りしめている。それは怒りによってプルプルと小刻みに震えていた。このままでは情け容赦なく全員を切り殺さんばかりだ。
(私はこいつらを甘やかし過ぎたようだ)
そんな物騒な思考がオレにまで届いた。いい加減に止めないと大変なことになる。するとそのルージュのテレパシーを受けて天啓を得た。オレはそのアイデアを熱が冷めることを祈って口にした。
「これからはテレパシーでの会話を徹底する。そうすれば呼び方を変える必要はないだろう」
オレがそう提案するとアーコはものすごく不機嫌な顔になり、
「つまんねえ奴らだな」
と一言を飛ばしてきた。
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