挑発する剣
「主よ。出直そう」
「・・・ああ」
また顔に出ていたか、オレが言い出す前にルージュが口火を切った。後日改めるか、さもなくば別の町に着いた後、準備万端で登録し直すことにしようなどと考えていた。
しかし。
ルージュの言葉はそこで終わらなかった。
「このような目の利かぬ者を応対の係にしている組織など高が知れる。別のギルドとやらを当たった方が身のためだ」
「え」
と驚愕の声を出したのはオレではなくてラスキャブだった。
ギルドの中で喧嘩を売っているというのは馬鹿でも分かるだろう。案の定、ギルドの者は元より、登録している戦士や冒険者たちもが怒声を浴びせながら立ち上がった。
「『煮えたぎる歌』と言ったか? かつては名声を得ていたかもしれないが、すでに干上がってしまったのだろうな。ここは強さを何よりも重んじるギルドと聞いたが、過去の話のようだ」
ルージュの挑発は続く。窘めようとした刹那、その場で唯一椅子に腰かけたままであった受付の男が静かに、されども響く声で言った。
「ガキの不始末は親がけじめを付けるのと一緒だ。魔族とは言え従えている者の失言は主が落とし前を付けろ・・・が、腹の立つことにその女の魔族が言ったように『煮えたぎる歌』は強さこそを尊ぶ。従者にそこまで言わせるって事は多少は良い恰好を見せてやったんだろ? なら俺達にも見せてみろよ。どの道もう、抜いた剣は収まらねえんだからよ」
男の言葉を聞いたルージュはオレにしか見えない角度でニヤリと笑った。
なるほど。全部思惑通りだったという訳か。
争い事を極力起こすまいと考えの幅を狭めていたが、確かに一つの解決策にはなる。特にこの『煮えたぎる歌』には効果的だろう。
が、途端に一つの不安材料を思い出す。
オレの力はほとんど旅を始めた頃に逆戻りしている。この状態じゃいくらなんでもこの数を相手にするのは不可能だ。けれどもそれもいらぬ心配だった。ルージュがそんなことを見落としている訳も無く、オレの手を握ると魔法で一振りの剣を生み出した。
それはルージュが本来の姿に戻った時と瓜二つの剣だった。が、それには何の魔力も感じられない。単純なレプリカと言っていい。それよりもオレは自分の体に起こった変化に一瞬戸惑った。
(おい・・・この感覚は)
そう頭の中で念じ、ルージュに問いかけた。
(ああ。私が預かっている主の本来の力だ。剣を媒介に一旦返却したといったところだな。主の本来の強さはあの城で間接的に伝わってきた気配でしか知らんのだ。いい機会だからこの目で見せてもらおう。その方が剣としてできることも増えるからな。ギルドの奴等も黙らせることができて両得であろう?)
(まったく・・・)
と、形だけの悪態をついた。どうせ心の中はお見通しであるし、自分でも分かるほど喜びが顔に出ている事だろう。どんな方法や形であれ、戦えるというのは何よりも悦ばしかった。
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