冷や汗を掻く勇者
「どうだった?」
「ま、本当にざっと見た限りじゃ有益そうなものはないな。強いて言えば比較的損傷の少ない家を見つけたぜ。多分、あれは宿屋の跡だな」
「そうか。こんな状況だ。数日の間、雨風が凌げればそれでいい」
「ザートレさん達はどうでしたか?」
ひょこっと歩み出てきたトスクルがオレに向かって聞いてくる。
「西側のバリケードが外からの攻撃で破損していた。恐らくだが何者から襲撃され、この街を放棄して逃げたか…もしくは殺されたんだろうな」
「で、でもザートレさんの話ではこの街にいた『囲む大地の者』は強い人ばかりだったんですよね? その人たちでも太刀打ちができなかったということですか?」
「…そうなるな」
ラスキャブの指摘に今更ながら冷や汗が出た。しかしその感情を表に出しては不安を誘引しかねない。オレは平静を装う事にした。狼の姿は表情の変化に乏しいから助かる。
するとオレの心を読んだのか、ルージュがフォローを入れてくれた。
「だが街の様子を鑑みるに襲撃は一度きり。数日滞在していたとしても問題はあるまい。それに誰がここを襲ったかは心当たりがある」
「え? そうなの?」
「あくまでも消去法による推論だがな。それだけの実力を持ち、ここが『螺旋の大地』とすれば十中八九、魔王の仕業だろう。ダブデチカやルーノズアを思えば奴が『囲む大地の者』に対して好戦的なのは明白。城に一番近いこのゴトワイを襲ったとして何の疑問がある」
「そっか。アイツか…」
純真なピオンスコの瞳に影が宿った気がした。こいつはラスキャブとトスクルが絡むとムキになる癖がある。仲間意識の強さからくる怒りだろう。
彼女の気持ちはよく分かる。オレ自身もルージュが魔王と言う単語を口にした途端につい心臓が一跳ねして、血液の流れが速くなった気がしたからだ。
「ともかくこの街に有益そうなものはほとんどないってこった。それを踏まえてどうする? さっさと試練とやらに挑むかい?」
「いや。どの道準備は必要だ。武器や防具は諦めるにしても、食糧の確保だけはしておきたい。以前の経験を踏まえれば試練を突破して城に辿り着くまでに十日かかった。試練の内容や道程は分かっているが、それでも二週間分くらいの備蓄はしておきたいのが本音だ。さもなくばダンジョンの中の草や虫で飢えを凌ぐことになる」
「って言ってもこの有様じゃ何も買えないだろ」
「街の外に出れば獣や果物は手に入るさ。保存食にして備蓄しよう。その為にはアーコ達が見つけた宿屋にベースを作って数日間の拠点にする」
「へいへい。んじゃまあ、場所を変えますか」
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『魔王を倒した勇者の息子に復讐をする悪堕ちヒロイン達』
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