応える勇者
やがて食事と共に一時の休息が終わる。もうみんなにオレを引き留める理由はなくなったと邪推な事を思ったが口には出さなかった。代わりに食事とこれまでの支援に対するお礼の言葉を口にした。
「美味かった、ありがとう」
「いえ、そんな」
ラスキャブはニコニコと機嫌よくなって片づけをしてくれた。料理を用意してくれていたラスキャブの好意を無下しようとしていたオレに対して睨みを利かせていたトスクルとピオンスコの表情も元に戻ったので安心だ。
「ジェルデとトマスも世話になったな。しかもオレ達の到着まで待っていてくれて有難い限りだ」
「世話になった度合いで言えばワシらの方がよほど大きい。アンタたちが現れなかったら、間違いなく死んでいた。それに人の冒険譚にここまで心躍ったのも久しぶりだ。すっかり童心に帰らせてもらった」
「ふふ。本当に子供みたいだった」
トマスはくすりと笑った。
確かに人と語らうのは楽しかった。特にジェルデの場合、同性でしかも『囲む大地の者』だというのが大きいのだろう。最初に思っていた以上に心に平穏が訪れた。束の間の休息としては十分すぎるほど心身が癒されているのを感じた。
だが、それも終わりにしなくてはいけない。
オレはすくっと立ち上がる。
「…行くのか」
「ああ。『螺旋の大地』についたせいか、血が滾って仕方がない」
魔王が居城を構える『螺旋の大地』の中央にある山の峰を見据えた。月明りしか頼るものない状況ではぼんやりと幻のようにしか見えなかったが、敵意を新たに構えるにはそれで事足りた。オレがそう言うとパーティのみんなが出発の意思を見せる。今度は誰も引き留めることはなかった。
するとジェルデも立ち上がり、焚き火を迂回してオレの隣に来るとこちらに握手を求めてきた。
「どうか…この世界を…」
その続きは言いよどんでしまった。自分が戦えない不甲斐なさが込み上げたのか、それともオレ達のプレッシャーにならないようにと気を利かせてくれたのかは分からない。だがオレはその手をしっかりと握りしめて言った。
「任せておけ。そっちも今苦しんでいる『囲む大地の者』のことを助けてやってくれ」
「ああ。わかった」
ジェルデ達は明朝、日の出と共に正規の航海ルートに戻るらしい。という事は、いよいよここで別れることになる。
オレ達は名残惜しさを残しつつ、二人に見送られたながら夜の森に入っていく。目指すはゴトワイという名の町。魔王に挑むためにやってくる冒険者たちが集っている内に自然と生まれた集落だ。
まずはそこで最後の旅支度を整える段取りだった。
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