心くすぐられる勇者
オレはアーコが変じたブレスレットから流れてきたイメージを、更に強く具象的になるように念じた。すると剣が放つのと同じような青白い光が生まれて、それがどんどんと寄り集まり形を成していく。最後には幻術士が扱うやけにリアリティのある幻のような、透明感のある盾が完成した。
青白い光はそのまま茨が規則正しく織りなす紋様になっており、妙に男の童心をくすぐられた気分になった。
「すごい、な」
魔族の姿を取り、より魔術的要素に敏感になっていることも手伝ってか盾の性能の高さを直観的に感じ取れる。流石はルージュと対等に喧嘩ができるだけの器の持ち主と言ったところか。
だが感心しているのも束の間、オレは二人に注意喚起された。
((来るぞ!))
レイク・サーペントはその巨体から想像もできないような速さで真っすぐとオレに襲い掛かってきた。あの図体で何故的確に矮小なこっちの居場所を把握できているのか…恐らくは五感ではなくて魔力を感じ取る器官が発達しているのだろうと推測する。水中から湖面の船を狙えるのも、その推測が当たっていれば説明が付く。
オレは少しでも船に被害が届かない事を願って右に大きく走り出した。剣と盾のおかげで使える魔力の桁が二つくらい上がったような感覚だ。大振りで反転魔法を撃たなくても、足を踏み出すだけで一瞬でその場を氷漬けにできる。これなら地面と湖面とに違いはないも同然だ。
そうして動き出したオレに向かって、レイク・サーペントは的確に対応をしてくる。仮説の正誤性はともかくとして攪乱するには策を練る必要がありそうだ。
レイク・サーペントはオレの視界の半分以上を覆うくらいの大口を開けて飛びかかってくる。こちらも負けじと大きく跳躍し、奴の真上を取ると。赤黒い不気味な皮膚に刃を入れるのは抵抗があったが、仕方がない。身体をひねり重力を利用した渾身の一撃を加える。アーコの盾は俺の意思で出し入れが自在なので、盾を持ちながら諸手で剣を扱える。小さなことかも知れないが、戦闘面でストレスを感じないのは嬉しいことだ。
思っていたよりも剣での一撃はダメージを与えることが叶った。血や体液などがでないのが更に不気味さを増していたが、それでも勝ちの目の可能性が感じられたのは大きな成果だ。
するとレイク・サーペントは気味の悪い声を上げ、一度水中深くへ潜っていった。警戒を解くことなく身構えていたが、気配はどんどん下方へと遠ざかっていく。気が付けば不可解な静けさが残るばかりだ…。
「まさか…逃げたのか」
そんな考えが頭を過ぎった。
だが、次の瞬間にはオレはその考えを改めることになるのだった。
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