風吹かす勇者
投稿ミス
オレは再び外に飛び出すとすぐにルージュを通して魔法を拡散させて飛ばした。湖面にぶつかった魔力はたちまち氷結し、辺りには斑点模様のような景色が広がった。
「何を?」
「説明は後だ…アーコ、トマス」
急に名前を呼ばれた二人は険しい顔になってオレの言葉を待った。
「あの氷の的を狙って攻撃できるか? できることなら派手な音がなるように壊してもらいたい」
その言葉だけで戦いに敏い連中は、オレの意図に気が付いたようだった。
「なるほど。音で攪乱する策という訳だな」
「ああ。もしも効果があるようならうまくレイク・サーペントを誘導できるかもしれん。ともかく奴の真上にいるこの状況は危険すぎる」
「任しときな」
そう言って二人が無作為に氷をめがけて魔法を放ち始める。オレの注文通りけたたましく音を鳴らして次々に氷が砕かれていく。うまくいってくれることを願いながら、オレは次の指示を飛ばす。
「残りは急いで船に帆を張るぞ。風を使って帆船本来の動きで進めば、ルプギラほどの音は出ないはずだ」
「けど…風なんて吹いてないよ?」
ピオンスコの言う通り、今は無風とは言わなくてもとても風の吹き方が弱い。帆を張ったところで、満足に進むことはできないだろう。だが、それは今のオレにとっては大した問題じゃない。
「…風が吹いていないなら、吹かせればいいだけだ」
ニッと口角を上げて、オレは指を鳴らす。
するとピオンスコの顔面に強風が吹き付ける。あまりの勢いにピオンスコは上半身をのけ反りながら尻もちをついてしまった。
「びっくりしたぁ」
炎の魔法で生まれる気流を冷気でコントロールして風を起こす。元のフォルポス族のオレだったらどうあがいても使えないような魔法が簡単に扱えると思うと、改めて変身の有用性を実感する。
「ジェルデ、指示をくれ。帆船の扱い方はオレ達にはわからん」
「わかった。二手に分かれて帆を張ろう。難しいことはない、支柱に登って帆を止めている縄を解いてくれればいい」
「よし。そうと決まればさっさと始めるぞ」
ジェルデの指示の元、慣れぬ手つきで帆船の帆を張る。それでもラスキャブたち三人は飲み込みも勘もよく働くので、初めてとは思えないほどの仕事っぷりだった。むしろオレが一番の足手まといになっていたと言っても過言ではない。
どうやらこの魔族の姿は魔法に対しては器用になるのだが、こういう手先を使う作業には向かないらしかった。支柱に登ったはいいものの、結局は大した仕事もできずに飛び降りた。まあ、この際それでもいい。オレの仕事はこれからなのだから。
オレはルージュに魔力を込め、冗談の構えから一気に振り下ろす。
すると先ほどピオンスコに浴びせたのとは比にはならないほどの大風が巻き起こり、帆船を動かし始めた。
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