動揺する勇者と剣
これはルージュとアーコの二人と魔王の因縁を繋げる手がかりになるかもしれない。そう思ってオレはルージュの事を見た。
見たのだが…ルージュはまるで石にでもなったかのように微動だにしていなかった。ただただ見たこともない険しい顔をして一人考え込んでいた。
「どうかしたのか?」
「…」
「ルージュ?」
「! っす、すまない主よ。考え込んでしまった」
オレは驚いた。狼狽し、取り乱すルージュなど見たことがなかったからだ。コイツにとってはそれほど衝撃的な内容があったという事か?
思い当たるのは、やはり墓標で泣く魔王の姿だとは思うが…。
ルージュにそのことを言及すべきか否か悩んでいると、トマスの方が先に喋り始めてしまった。
「訳アリだとは思っていたが、まさか魔族ですらないとは思わなかった。数奇な人生を送る者の書物はいくつか読んだことはあるが、その中でも群を抜いておいでだな、ズィアル殿は」
「…ああ、全くだ」
「事情はわかった。その上で私の所感を話そう」
「そうしてくれると助かる。戦略的にも何か意見があれば言ってもらいたい」
俺がそういうと、まるで何もなかったかのように平静を装ったルージュも会議に参加してきた。こうなるとオレは最早言及できるタイミングを永遠に逃してしまった。尤も魔王討伐という大局からすれば、些事のような出来事だ。そうやって自分を無理やりに納得させて今後の策を練り上げていった。
◇
◆
◇
トマスは戦略的な経験や知識はもちろん参考になったが、それ以上に彼女の史学的な見解に大きな興味を植え付けられた。
やはりトマスであっても不帰の門と試練の関係性や詳細などは憶測以上のことは分からなかったのだが、その憶測が問題だった。戦う事と食べること以外にはあまり大きな関心を持つの事ないオレが彼女の話には、まるで芝居を見る子供のように夢中で聞き入ってしまったのだ。
だが、それは決していい意味ではなかった。
話が終わってみればオレの心の中にはすっかり意気消沈した燃え殻のような、プスプスと燻ってはじきに火が消えるのを待つだけのような得体の知れない感情だけが残っていた。
「そんな…ことがありえるのか?」
本当に自分の意識の外から勝手に喉が声を出したようだった。
「無論、全ては憶測だ…いや私の妄想かも知れない。私だって魔王を裏切ったとはいえ魔族なのだ、魔族贔屓で自分に都合のいい解釈をしているだけなのかもわからない」
「…」
それでもオレにとっては衝撃的な憶測であったことには変わりがなかった。いや、この話を「囲む大地の者」が聞けば、皆何かしらの感情の動きはあるはずだ。たまたまオレは気落ちしてしまっただけに過ぎないのだ。
心配そうにこちらを見るラスキャブ、ピオンスコ、トスクルの三人組の顔がふと目に入った。それが何故か妙な責任感と言うか、やる気のようなものをオレに与えてくれた。
気を取り直して、一呼吸置くために外の空気が吸いたくなった。
その時である。
船体が地震とも思えるほど大きく揺れたのだった。
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