繋がる勇者
「話すことは吝かではないが、少し待てるか? ルプギラを操りながらでは集中できん」
「いいよ。俺が変わる、だからアンタはこいつと話をしてくれればいい」
アーコはそう言ってトマスの居場所を奪うようにして操作を変わった。オレと同じで、まどろっこしい真似はしたくないらしい。
「わ、わかった。少しコツがいるから気をつけてくれ」
「おう」
トマスは服の乱れをさっと直すとこちらに改めて向き直った。そして毅然とした態度で声を出す。
「それで何を話せばいいのだろうか?」
「その前に叶うのなら貴様の肌に触れることを許してはもらえないか?」
「? どういう事だろうか?」
「単刀直入に言えば私は触れた相手の記憶を読み取ることができる精神感応系の能力を有しいている。言葉で説明されるよりも確実で迅速に情報を供給してもらえる」
そんな申し出を受けたのは初めての事だったのだろう。少々驚いた表情を見せたものの快くこちらの要求を呑んでくれたのだった。トスクルの言う通り、恩義や義理に対しては誠意を見せるタイプのようだ。
オレはそんな様子を見て、やはりこちら側もある程度の情報開示をするべきだろうと心が決まった。
返事をもらったルージュは早速彼女の手を取った。それを見届けてからオレ達もルージュの肩やら背中に手を触れる。
「ルージュ、オレの記憶も全員と共有してくれ」
そういうとルージュはやれやれと言わんばかりのため息をもって返事としてくれた。
次の瞬間、全員の持っていた魔王と奴の城に関しての記憶と情報が交錯する。ルージュ通じての交感が終わると、お互いが持っていた衝撃的な事実の数々に全員で深いため息をつくしかできなかった。
それから十数秒の間、自分の中に入ってきた情報を整理するためか誰も何も言えずに固まっていた。そんな静寂を破ったのはピオンスコの無邪気な声だった。
「『螺旋の大地』って外から見るとこんな感じなんだね。なんか不思議」
どうやらピオンスコはオレの記憶を反芻しての発言だったようだ。確かに試練の道が不帰の門と呼ばれ、不可侵領域とされているのならピオンスコたち魔族は、今回のような珍事が起きでもしない限り、外側から自分たちの世界を見ることはできないだろうから、それも納得だ。
オレとしてもトマスから魔王の城の詳しい地理や『囲む大地』への侵略作戦の概要などを得ることができた。特にあの虚ろの影にあった墓標と思しき墓と、そこで泣く魔王の姿の記憶は大きな収穫だろう。
このまま『螺旋の大地』に出向いても魔王は不在の可能性が高い。ともすれば、奴の拠点を奪うかさもなくば、試練での加護を受ける以外にももっと別の有意義な目的が欲しかったのだ。
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