共有する勇者
航海は順風満帆を絵に描いたようにつつがないものだった。
そこそこの大きさを持つ帆船だが、ルプギラという装置のおかげでジェルデとトマスの二人だけで操縦が叶っている。
不慣れな船仕事も吝かではないと思っていたが、暇を持て余すくらいならやってみたいとも思える。オレは生来、体を動かさないでじっとしているというのが得意ではない。いくら肉体が変身しているとは言えど根本的なところはそのままになっているらしい。
幸いだったのはピオンスコが驚異的な適応力を見せて、さっさと船酔いから解放されたことだろうか。おかげでオレも狼へ変身をして船酔いとはおさらばできていた。
調子を取り戻したピオンスコは部屋に用意されていた木箱から適当に果物を取り出しては旨そうに頬張っている。確かに船酔いは取れたとはいえ重いものは食べたくはならない。程よく水分のある果物を齧りたくなるのはよく分かった。というよりも、無邪気な笑顔で嬉々として食べているピオンスコに触発されただけかもしれないが。
オレも相伴に預かろう思い、横にしていた体をむくりと起き上がらせた。手のある体を使いたいところだが、狼から姿を変えると途端に気持ち悪くなってしまうからやむを得ず、このままで果物を食べることにした。
その時だ。
ふと得も言われぬ悪寒が走った。直観に身を委ねて、オレはオレンジを手に取ろうとしていたピオンスコを制止する。
「ピオンスコ。そのオレンジ、何か変だぞ」
「え?」
不思議そうな顔をしながらピオンスコはオレンジを掴む。その瞬間に、オレの言葉の意味を理解したようだった。
「あ、ホントだ。腐ってる」
「やっぱりか」
「なんで? 何でわかったの?」
「オレも理屈は分からない。この姿の時はとてつもなく勘が働いてな、何となく危ないことに敏感に反応できるんだ」
「へえ~」
すると、部屋の隅で船酔いすることもなく備え付けの本を読んでいたトスクルが、会話に加わってきた。パタンっと勢いよく本を閉じる音が部屋の中に響く。
「大いに役立ちそうな能力ですね」
「ん? ああ、そうだな。戦いも楽になるし、そもそもこれだけ察知能力が高いと余計な戦闘を回避することもできるだろう。ルージュとアーコの精神感応魔法も合わさればアリの子一匹の場所だって筒抜けじゃないのか」
「ああ、すみません。言葉が足りませんでした。私が言ったのは、『螺旋の大地』にある試験を踏破するのに役立ちそうという意味です」
トスクルのその指摘で、オレはひらめいた。暇を持て余している場合ではない。魔王の居城に辿り着く前には五つの試練を越えなければならないのだ。
普通は事前の情報など仕入れようがないから想像で対策するか、さもなくば諦めて土壇場の対応力にすがるかしかないのだが、オレの場合は勝手が違っていた。今のうちに情報の共有をしておいて損はないだろう。
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