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踏まれる勇者

 ◆


 ピオンスコの尻尾から注入された毒は、瞬く間に魔王の生き人形の体を蝕んでいった。幹部を中心に悍ましい色が広がっていき、やがて人形は砂の楼閣が崩れるように粉々に砕け落ちてしまった。


 すると今度は魔族たちの悲鳴が聞こえてきた。


 切り札として全ての期待を一身に背負っていた魔王の生き人形が敗れたのだから無理もないことだ。それぞれが命乞いを恥じらうことなく口にしてはあちこちへと逃散していく。ルージュの魔法で意思喪失していた魔族たちも、次第に正気を取り戻していくと状況を把握してやはり同じように逃げ出した。


 あの勢いでは恐らくはこの街を捨てていくかもしれない。


 反乱軍の目的は船の奪還だが、元はと言えばこの街の住人だ。魔族からしてみればこの街を取り返すことが目的だと思われていてもおかしくはない。だが、依然としてここが本物の魔王によって侵略され、拠点にされたという事実は変わらない。またいつ魔王ないし部下が戻ってくるともわからないのだ、この街はもう捨ておくしかないと思う。


 だがそれはこの街の連中の問題だ。オレ達があれこれ心配しても仕方がない。それよりも問題だったのは…。


「で? さっきのありゃなんだ?」


 如何にも不機嫌そうなアーコが如何にも怒りに顔をゆがめて尋ねてきた。ラスキャブたちは不安そうな顔を浮かべているが、彼女たちからも責められるわけではないと思うと少しだけ救われた気分になった。


「それが…頭の中に声が聞こえた。あの人形を殺すなと…」


「あ? 誰がそんな事を」


「突然すぎて誰だったのかもわからん。とにかくその一言で動揺して剣を鈍らせた。それだけ妙に説得力のある声だった」


「そいつが殺すなって命令をしたって事かよ」


「命令…とは違かったな。どちらかというと請願のようだった。殺さないでくれと」


「…そんな気配はなかったが、俺達の精神感応にジャックしたってのか? お前はどう思う? ルージュ」


(私もそのような気配は感じていない。だがこれだけの魔族に統治されていた街だ。精神感応系の術師がいたとしても不思議ではない。もしかしたら危機的な状況に追い詰められたことで無意識で潜在能力が開花した魔族がいたのかも知れないな。それなら殺さないでくれ、と頼むような静止をしたのも説明が付く)


 そうなのだろうか…? 感覚的な話で根拠はないが、そんな単純な話ではないような気がしてならない。


「ま、いずれにしてもだ…ザートレ、ちょっとそこに座れ」


「え?」


 言われるがままにオレはその場に腰を下ろす。するとアーコはゆっくりと足をあげた。一体何をするのかと思えば、それを思い切りオレの頭の上に落として踏みつけてきた。


「んなことで動揺して窮地に立たされるなんて、テメエは駆け出しのぺーぺーか? あ?」


「め、面目ない」


 屈辱的な格好であったが、ぐうの音も出ないほどの正論だったので甘んじて受け入れる。今回ばかりはルージュも何も言わずにアーコのやりたい放題に口をつぐんでいた。

読んで頂きありがとうございます。


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