うろたえる勇者
その誰ともわからぬ声に、オレは正しく意表をつかれて慄いてしまった。咄嗟に力が抜け、結果としてオレの一閃は左に逸れ、魔王を一刀両断できる軌跡のはずが右腕をかすった程度の攻撃になってしまう。
オレは元よりルージュも混乱しているのが伝わってきた。
(主よ。どうしたの言うのだ!?)
(分からん…今、誰かにテレパシーで引き留められた)
(何だと?)
困惑してしどろもどろとしているオレの動きは敵からすれば逆転の好機に見えた事だろう。凍てつく冷気で多少の霜にからめとられていた魔王はすぐにそれを振り払い、再び猛攻を仕掛けてくる。
精神的につまずいているオレは既に気合いで負けてしまっている。何とか致命傷だけは回避するために防戦に徹底することで戦況が傾かないように必死にこらえていた。
◆
「何やってんだ、あのバカっ…」
ザートレたちに何が起こったかは分からなかったアーコがそんなことを呟いた。すぐにラスキャブたち三人へ指示を飛ばす。
(緊急事態だ、ザートレの様子がおかしい。もう四の五の言ってる場合じゃない。人形にとどめを刺してさっさと船に向かうぞ)
(! わかりました)
三人はアーコからテレパシーを受け取ると、それぞれアイコンタクトをしてから頷いた。
すぐさまアーコを含めた四人でザートレの下へと駆けて行く。
(こうなったら頼りの綱はピオンスコ、お前の毒だけだ)
(わかった! 任しておいて)
ピオンスコを殿にして前の三人は扇状に広がっていく。トスクルはイナゴを飛ばし、人形への牽制と外野からの援護を止め、ラスキャブとアーコは人形の注意を散漫させるために動き出した。
防戦一方だったザートレも目の端に四人の姿をとらえると、その意図を察する。もはや頭の中にテレパシーが介入できるほどの余裕がなかった。今のザートレは長年にわたって蓄積してきた勘と経験によってだけで辛うじて立っているような状態だった。
(てめえはもう下がってろ!)
(いや、だが…)
(そんな状態の奴に任せられるかよ)
突如として人並みの大きさに巨大化したアーコは後ろ蹴りでザートレを吹き飛ばしてしまった。すぐさまラスキャブとタッグを組み、魔王の生き人形の攻撃を阻害し始める。障壁魔法を駆使してそのまま押しつぶすような戦い方で徐々に人形の動きが制限されていく。その上、体には無数のイナゴが這っているのだからまともな神経の通った者であれば、発狂していてもおかしくないような有様だった。
やがて顔までをイナゴが覆った時、見えない何かがアーコとラスキャブの懐をすり抜けた。次の瞬間にはミラーコートから飛び出した蠍の尻尾が生き人形の胸に突き刺さっていたのである。
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