嘲る勇者
(攻撃に不安があるというのなら主よ。一つ提案がある)
その時ルージュの声が頭の中に響いた。
ルージュは姿を大きく変え、オレの首輪となってくれている。オレもそうだが姿を変えられるのは、やはり重宝する能力だ。ルージュやアーコのように大きさから何からまるっきり別の形になれるのなら殊更だった。
(提案?)
オレは素直に聞き返す。剣の方から戦い方を指南されるというのもまた味わい深いものだと、そんな事を思っていた。
(ああ。いつかの時のように鞘に染みついていた記憶に試す価値のある技があった)
(ほう)
普段、剣であるルージュを納めるのに使っている鞘は少し謂れのある品だった。鞘屋という鞘を専門に扱う不可思議な店で手に入れたソレは、かつて名だたる剣士に使われ、名剣を納めていたものだった。鞘にはそんな歴戦の戦士の戦いの数々が記憶されており、オレ自身もその記憶からアイデアを拝借して技を開発することに成功している。
その中でルージュは一つの記憶を見せてくれた。
垣間見えた映像はとある洞窟の中で、水晶でできた怪物を相手に戦っている場面であった。その時の使い手は剣を水晶に当て、その振動を共鳴させ、さらにそれを魔法で増大させることで見事に敵を破砕していた。
(…戦い方は見事だが、これを見てどうしろと?)
(この振動を増幅させたり、音に魔力を込めるというのは私も真似できる。それを利用するのだ)
(具体的には?)
(声と言うのは音で空気を振動させること聞こえるのだろう? 今の主は遠吠えや唸り声を得意とする狼だ。しかもお誂え向きに私は首輪として主の喉に一番近い場所にいる。喉に私の魔力を注入し、それを声として使う事は容易かろう)
(なるほど…確かに一考に値するな)
爪や牙でなく、声を武器にするというのはオレだったら思いつかない発想だ。
こういったアイデアを出されると剣とその持ち主という関係とは言えども、一人の仲間としてとてつもない信頼感が芽生えてくる。今まで色々な人種や職業の仲間やパーティと組んできたが、ルージュほど馬の合う奴はいないと確信できる。
だからこそ、素直に称賛の言葉を投げかけた。
(流石、頼りになるな。愛しているぜ)
(…)
ところが返事は何も返ってこなかった。
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