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冴えわたる勇者

 そして成果はすぐに現れた。戦闘を全面的に三人に任せることができたおかげで、オレはあるであろうこの姿の特性を探すことに集中できたのが功を制したようだった。


 初めの気付きは鼻。つまりは嗅覚だった。


 フォルポス族は『囲む大地』の五大種族の中で一、二を争うほどに嗅覚が優れている。俺自身もそれは自慢するほどだ。しかし改めて集中してみると、フォルポスの姿の時以上に鋭敏になっているのが分かる。


 こんな具合に家屋の木材が焼けた煙が町中に充満していれば普通は鼻は潰されて使い物にならなくなるのが常なのだが、そのような悪条件の中にあっても正確に敵味方の居場所を把握することができる。なぜならばこの鼻に届いているのは体臭ばかりではないからだ。オレ自身が初めての経験であるからうまく名状はしがたいが、魔法の匂い、とでもいうのだろうか。魔力を帯びた生き物や物品、はたまた魔法そのものに至るまで嗅覚で場所を特定できている。


 そればかりではない。鼻に届く匂いはその善し悪しによって異なる香りとなっているのだ。具体的には自分にとって敵意のない者の匂いと敵意を持つ者の違いを嗅ぎ分けることができている。応戦する三人や上空にいるアーコ、通りの裏を急ぐ反乱軍からは香草のような香りが、反対に魔王の生き人形やソレが放つ魔法、それから街を牛耳る魔族たちからは汚水のような匂いが醸し出されていた。


 これほどまでの悪臭はどこに息を殺して身を潜めようとも隠しきれるものじゃない。


 その時、不意に弓から放たれて空を割く矢の音が真後ろから聞こえてきた。流石に魔族たちもオレがただの迷い込んだ狼でないことは気が付き始めている。が、オレは今の射手に礼を言いたい気持ちで満ち満ちていた。また新たな発見を示唆してくれたからだ。


 二階の窓からの攻撃は上から見ているアーコにとっては死角。その上、魔力の込められていない矢じり相手には自慢の鼻も反応が鈍かった。それなのにも拘らず、オレは今の攻撃を難なく回避することができた。理由は明白、さっきを機敏に感知したというのもあるが、それよりも何よりもまず耳が危機を教えてくれた。


 弓引く音は勿論の事、そっと立ち上がった時の服が擦れる音、オレを狙うように指示を出す時のひそひそ声までが漏れることなく耳に届いていた。


 しかも射手がオレに示してくれた可能性はそれだけではなかった。


 今の矢での攻撃を避ける時、オレは左右のどちらにでも体を動かすことは可能だった。だが直観的に右に避けるのは危険だと判断した。理由は全く分からない、オレの語彙力では本能としか言い表せないような、そんな感覚があったからだ。

読んで頂きありがとうございます。


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