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飛び込む勇者

「心中を決めるにゃまだ早いんじゃないか」


 ジェルデとトマスの眼光から全てを悟ったアーコがそんな言葉をあいさつ代わりにした。


「まさか、こんなに早くベヘンを…?」


 負けぬまでも辛勝するだろうと計算していたジェルデとトマスは心底驚いた。しかしその驚愕も束の間、心根に希望と勝算が沸いた。ズィアルたちが加勢してくれるというのなら、確かに決死の特攻を仕掛けるのは今ではない。


 そんな思いが熱となって全身に巡るのが分かった。


「あの魔王もどきの相手は俺達に任せて、さっさと船を調達しな」


「魔王もどき? アレは偽物なのか…?」


「ああ。古い魔法で作った人形だ…とか詳しく説明している時間ももったいねえ。うまく躱して港を目指せ。必ず追いつくから待ってろよ」


 そう言うとアーコはいつも通りのサイズへと急に変身した。唖然とした二人を尻目に自らの役割を全うするため氷瀑の上へと飛び去っていった。


 ◇


 その頃。


 アーコ以外の面々は突如として現れた氷瀑に苦しむ魔族たちに音もたてずに忍び寄っていた。標的は魔王の生き人形のみ。その他の魔族ははっきり言って眼中にはなかった。


 取り巻きの魔族を始末するために路地や家の陰から四つの影が飛び出す。


 ラスキャブ、ピオンスコ、トスクルの三人組の後方に黒々とした毛並みの狼の姿があった。


 前方の三人はいつものように慣れた手つきで敵を翻弄し、確実に急所を狙い魔族たちを仕留めていく。


「な、なんだお前らは!?」


 氷瀑に喘ぎ、さらに同じく魔族であるラスキャブたちから奇襲を受けたことで魔族たちは絵に描いたようにパニックに陥った。本来ならラスキャブが死体に術を施して更に追い打ちをかけるところだが、今回は脇目もふらずに魔王の生き人形を目指す。


 性格や特技は勿論のことながら、それぞれが強固な肉体、反則級の猛毒、初見では対処が困難なイナゴの操作と攻撃、防御、攪乱に秀でた能力があることもスリーマンセルとしてとても完成度が高いと改めて思う。


 そんな感想を述べられるほど、三人の戦い方は余裕のあるものだった。尤も、それは本命がこちらを敵と認識するまでの話だったが。


 魔王の生き人形を操る術師を殺せばすぐにでも機能は停止するだろう。その証拠に、混乱から目を覚ました魔族たちが一斉に親元の術死を庇うような動きを見せた。戦法としては正しいし、当たり前の行動だ。だがそれは敢えてやらない。オレ達はむしろこの人形と戦いたいのだから。むしろ、そうやって防御に徹して、こちらの邪魔に入らないでもらえることの方が好都合だった。

読んで頂きありがとうございます。


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