勘繰る勇者
町の手前にある簡素なレンガ作りの門の前には、検閲待ちで並んでいる先着のパーティが二組いた。そしてその二組ともが先のビーロス族の男が言ったように、魔族を使役していた。それどころか門番さえも雑用に魔族を使っていたことに対して、オレは驚きを隠せなかった。
一体どうなっているんだ?
「おい、次だ」
あれこれと考えてぼうっとしていると、門衛から声が飛んできた。オレを一瞥した門衛だったが、ルージュとラスキャブは入念にチェックしている。魔族なのだから当然だろう。そしてその確認が終わると、再びオレを見て言った。
「この魔族二人、登録印の類が見当たらないが?」
「・・・登録印?」
「ああ。それとも旅の途中で捕まえて、この街での登録か?」
薄々考えてはいたが、やはり魔族に対してのシステムや価値観も変容しているらしい。オレが魔王の城を目指している間に一体何があったのか。気になるところではあるが、今はまず町に入ることを優先する。先ほどと同じく、無知な田舎者を装ってしまおう。
「すまない。ギルド登録をしようと思って初めて村を出たんだ。オレの村では魔族を従えることすら疎まれていてな、登録が必要という事すら知らないんだ」
そう言った途端、門衛の態度があからさまに蔑視に変わった。
余程の世間知らずに呆れたか、それともこの年になって初めて村を出たという男を小馬鹿に思ったか。
きっとその両方だろうな。
魔族の登録云々はさておき、オレだって自分と同い年くらいの男が初めて村を出てギルド登録にきたといったら呆れかえると思う。冒険者にしろ討伐者にしろ、それを志すには遅過ぎる年齢だ。
多分、門衛にもぐうたらに愛想を尽かされて親に追い出された怠け者とでも思われていることだろう。
「・・・分かった。未登録の魔族二人とフォルポスの男が一人だな。そこの受付で関税を払って通れ」
言われるがままに受付に進み、なけなしの金で税金を支払った。宿についたら考えなければならない課題の優先事項が金策に変わった瞬間だった。
ルージュとラスキャブが未登録の上、オレ自身もギルド未加入ということで大分長い有責事項の説明を受ける羽目になった。できれば今日のうちにギルド登録を済ましたかったのだが、それも叶わないらしい。夕方、というよりも宵の口辺りになってようやく町へ入ることが許されたのだった。
ルージュとラスキャブは、恐らく街に入るのが初めてだったのであろう。まるで姉妹のように嬉々としてあちらこちらに目を奪われている。疑問はまだ残るが、魔族が堂々と街を闊歩しても忌避されないこの状況はとてもありがたいものだった。
しかし、オレはオレで妙な不安に苛まれていた。
かつて訪れたことのあるこの街だが、異様に様変わりしている。道や主だった建物は記憶とそう差異はないのだが、新しい建造物もまた多い。この街を立って魔王の城を目指したのが、今から約五年前のこと。たったそれだけの歳月でここまで様相が変わるものだろうか?
◇
そして、オレのそんな疑問は宿屋で部屋を宛がわれた後に解決することとなる。
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