苛まれる勇者
やがて握手が終わるのを見届けたオレ達は未だに待ちぼうけを喰らっている囚人たちの解放のためにもう一度牢屋のある部屋と歩き始めた。そしてこの隙にと言わんばかりに、オレはルージュへとテレパシーを飛ばした。
(どうだった?)
(大丈夫だ、二人とも言葉に偽りはない。魔王に対する敵意も本物だった。信用して問題あるまい)
(そうか…)
その言葉を聞いて心にチクリと棘が刺さったような痛みがあった。
捕らえられている者達の正体や目的がまるで分からなかったので、救出に当たる前にオレだけでも姿を変えてほしいとルージュに懇願され、魔族の姿を取った。万が一でも魔王やそれに通じている者たちに「ザートレ」という名を聞かれる訳にも行かないので、偽名と偽りの姿を使う事は誰に聞いたとしても正解だろう。
ただ、ルージュがトマスとジェルデ両名の心を読んで、真に魔王を討ち仲間たちを助けたいという目的を持っている事が分かった今、オレの胸中には罪悪感しか残っていないのだ。
本来、戦闘以外での嘘や誑かしは得意でないので尚更だ。けど周りを見れば、俺よりも緊張して顔を強張らせているピオンスコの顔が目に入った。アーコとトスクルに絶対にザートレと名前を呼んでボロを出すからと決めつけられ、いっそのこと何があっても口を利くなと命令されているのだった。
そんなピオンスコの顔に、オレは少しだけ癒されて余裕を取り戻す。
けれども、そんなオレの思いなどは当然のように皆に筒抜けだったので各方面からからかいの言葉が飛んできた。
(気にすんなって。お前、魔族になると性格が軟派っぽくなるから、良いカモフラージュになるぜ)
(軟派? そうだろうか?)
(何と呼べば良いかはわかりませんが、素敵だと思いますよ。以前も言いましたけど、私は魔族の姿の時のザートレ様が好きです。ねえ? ラスキャブ)
(ええ? わ、私はどっちも素敵だと思うけど…)
(アタシは狼のザートレさんがいいなぁ。凄いモフモフしてるし、また大きくなったザートレさんに乗りたい!)
などとそんな会話が盛りあがって行く。すると、そろそろだろうと思ったタイミングでルージュの声が頭に響いた。
(貴様ら、もっと緊張感を持てんのか。それと私の精神魔法の魔力経路で下らぬ会話を飛ばすな)
(あーあ、やっぱりルージュはフォルポスのザートレにご執心だから機嫌が悪くなってらあ)
アーコのそんな声が聞こえてきたと思った刹那、ぶつりとルージュのテレパス用の魔力が途切れた。代わりと言わんばかりに不機嫌に満ち満ちた視線を皆に送っている。
そんなものはどこ吹く風のアーコはすぐに自前のテレパスで全員の心を再び繋いだのだった。
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