握手する勇者
一瞬の沈黙ののち、ルージュがトマスに向かって尋ねた。
「それと肝心の貴様が魔王に対して反旗を翻した理由を尋ねたい」
「そうね。それを話さなければ始まらないわね」
先延ばしにしていた問題がとうとう提出期限となってしまった。さて、どう言えば自分の与太話を信じてもらえるだろうかとトマスは思案した。こっちは感情で動いているだけに下手な説明では逆に魔王と通じているのでは、と疑われる可能性だってある。
そうやって自分の考えをまとめていると、トマスの肩にジェルデが軽く手を乗せてきた。
「あれこれと考えるだけ無駄だ。ワシの時と同じ事を言えばいい。どの道、全員が魔王を殺したい理由は一致しとらんのだから」
「…ええ。そうね」
と、トマスは腹をくくって肩の荷を下ろしたような顔つきになって話し始めたのだった。
◆
トマスは自らが抱えている魔王軍の出した魔族の生命や尊厳を軽んじている侵略作戦への怒りや、突如として現れた側近への不信感、そして自分が幼少の頃にみた謎の墳墓に書かれていた内容から察した歴史改変の可能性の数々を言って聞かせた。
自分が思っていたよりもズィアル達は真剣に話を聞いてくれたことに驚いた。
そして話をする中で気が付いた事もあった。
ラスキャブ、ピオンスコ、トスクルの少女三人は自分の侵略作戦への不満に共感してくれたような様子だ。彼女たちの戦いへの意思の根底は恐らくそこだろう。洗脳の解けた魔族であれば当然のこととも言えるが…。
次に突然に現れた側近の話の時。ズィアルの身体が強張るのを見た。恐らくはあの四人が彼と魔王とを繋げていると、そんな予感を得た。
だが、ルージュとアーコ。この二人だけは未だそこが知れない。強いて言えば墳墓の話の時にちょっとした動揺があった……ような気がしなくもない。
いずれにしても自分の話を信じて共感してくれたのは大きい。トマスはそう思った。下手をすれば魔王側の間者と疑われても仕方のない立場にいるのだから。
「なるほど。そっちの事情はおおむね分かった。共に戦う理由としては問題ない。隣に閉じ込められている囚人たちを解放したら、改めてこちら側の目的と策とを説明します」
「うむ。わかった」
「トマスさん、ジェルデさん。改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ、だ」
トマスが話し終わるとズィアルは改めて捕らえられたルーノズアの町民の解放の為に協力しようと申し出てくれた。ただ、そう言って誓いの握手の手を差し伸べてきたのがルージュだったのは妙に気になっていた。
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