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失笑する勇者

 ズィアルは小さく咳ばらいをして、話を仕切り直す姿勢を整える。


「では改めてお互いの事情を確認しましょう」


「わかったワシらの事から説明しよう」


 ジェルデはルーノズアの街に起こった出来事、つまりは魔王の軍勢による襲撃とその防衛線の事を掻い摘んで話した。しかし、ズィアルもといザートレ達が宿屋の主人や運び屋たちから得た情報と重複するものばかりで、特に進展に至ることは何もない。


 ともすれば自然と皆の意識はトマスへと集まった。


「大方の事はこちらが調べたり、既に得ている内容と一致する。あとはトマスさん、でしたね? あなたの事情を伺いたい」


「わかりました」


 トマスは力強く頷いてから口火を切ろうとしたが、一体何から情報を開示すべきか迷ってしまった。だから敢えてこちらから質問をしてみることにしたのだった。


「その前に聞きたい。あなた方は魔王軍ではないのか?」


「ああ、違う」


「ならば転送された者たちだろう。城での洗脳は解けているのか?」


 するとズィアルは少女たちを指差して言った。


「こちらの三人はその転送された者たちだ。一人は今も尚記憶が曖昧、一人は体質的に洗脳魔法が効かず、もう一人は更に複雑な精神魔法を掛けられた反動で洗脳が解けている状態だ」


「ではあなた達は…?」


「うーん…こちらの状況を先に言っていた方がスムーズですかね」


 そう言ってズィアルはルージュ、アーコの二人を抱え込むように引き寄せた。


「オレ達は魔王の侵略が及ぶ遥か前から『囲む大地』にいた。こんな成りだが、あなたたちの数十倍は年齢を重ねている。ただ三人とも魔王には浅くない因縁を持ち合わせていてね、今は奴の企みを挫き、息の根を止めるという目的で結束している。そうして流浪している内に、この子らと出会い、今は『螺旋の大地』を目指している途中という訳だ。だが船がどうしても調達できない」


「! ということは他の湖港も?」


「少なくともダブデチカは奴らの手に落ちている。残り三つは確かめこそしていないが、その可能性は限りなく高い」


「…」


 あからさまに落胆するジェルデに慰めの言葉をかけたトマスは、もう一度ズィアルの事を見据えて更に凛とした声を出す。


「話を戻しましょう。あなた方の状況が整理できました。私は反対に洗脳を免れ、魔王と共に侵略戦に駆り出された者の一人です」


「『囲む大地』まではどうやって来たんです?」


「移動方法自体は洗脳された者たちと同じく強大な転移魔法を使ったはずです。もっとも私達が侵攻を開始したのは先月の事。隷属をさせることを目的に魔族を送り込んでいたのは十数年前から始まっていた計画だと、その時に知らされました。それまでは『螺旋の大地』で大規模な失踪事件が起きていると噂が立つほど、かなり秘密裏に行われていたようです」


「全員が納得の上、と言う訳じゃないんだな」


「そりゃそうだ。『囲む大地の者』の奴隷になれなんて、魔王の命令でもおいそれと受け入れられる訳ねえよ。そもそも洗脳を施す時点で一方的過ぎる」


「ええ。私もそれが不信感を抱いたきっかけでした。転送されたのは、特に女子供や戦う事に不向きな魔族が多かったはずです」


「ま、そっちの方が洗脳しやすいし、『囲む大地の者』が扱いやすいでしょうしね」


 当事者のはずのトスクルがそう呟く。誰しもが可笑しいと思ったが言及も笑い声もなかった。

読んで頂きありがとうございます。


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