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後悔する造反者

※火曜、金曜に更新をお休みしております。

 トマスはかつて子供の頃に魔王の城へと許可なく忍び込んだことがある。城の一端であれば貴族階級の家の子供なのである程度の出入りは許されていたものの、所詮はその区域までがせいぜいだ。だが、まだ分別のつかないトマスは恐れも何も抱かずに魔王の座す玉座の間へ入って行ってしまったのだ。


 いや、恐れていなかった訳ではないのかも知れない。少なくともその時は、まだ敬愛し盲信して魔王の姿を見てみたいという念も多少はあったとも思う。


 だが運よくと言うべきか、運悪くというべきか、いずれにしても件の魔王は玉座の間にはいなかった。それでも子供と言うのは別の興味を見つけるのも早いモノで、魔王がいないという事が分かると部屋の内装や装飾などに目を奪われて、あちこちを歩き回っていた。


 その時である。


 幼少の頃から風の魔法に強い関心を持っていたトマスは、玉座の間の中に不自然な空気の流れがあることを察知した。例によって興味をそちらに一瞬で奪われたトマスはすぐに神経を集中させて自分の違和感の正体を探った。


 すると何ら変哲もない壁に隠し扉があることに気が付いたのだ。


 うまく壁の装飾と馴染み、こんなことでもなかったら絶対に気が付かなかったであろう程に精巧な隠し方をされていた。しかし、その擬態の他は目立った仕掛けや施錠は皆無であり、子供の力でも難なく開けることができた。


 扉の向こう側は天然の岩肌と人工の石壁が折衷したかのような通路が、薄暗い灯りに照らされていた。


 怖い。


 と言う感情よりも、


 この先に何があるんだろう…。


 そんな好奇心に満たされたトマスは気が付くと壁に手を付けながら、隠し扉の奥の通路をトボトボと進み始めていた。


 道は入り組んでいたが、迷う事はなかった。彼女には空気の流れを感じる力があり、微かだが風が漂ってきている事を察知していたからだ。感覚に身を委ねると、そう遠くないところに大きく開けた空間があるということまで分かっていた。


 およそ十分程度歩いた頃だろうか。


 足元は暗く、興味が勝っていたとはいえ恐怖で歩みは遅くなっていたから実際には大した距離を歩いていなかったものの、トマスにとっては一つの大冒険の終盤を迎えた様な疲労感があった。それでも彼女の顔に疲れは出ていない。心躍るトキメキの様な興奮がそれを容易く打ち消していたからだ。


 しかし、ようやく予期していた開けた空間に辿り着いた時、そんなトキメキをもってしても抗えない様な大きな後悔が彼女を襲った。

読んでいただきありがとうございます。


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