思い出す造反者
トマスは魔族の中にあって、代々魔王に仕える由緒正しい貴族階級の家に生まれた。
一般的にこの世界は魔族か『囲む大地の者』を問わず男は腕力と攻撃系の魔法、女は防御・補助に関する魔法が得意になるという定説があるモノの、トマスはその両方の才を持っていた。
彼女は幼少の頃から二刀の扱いと風の補助魔法の技巧に目覚めると、俊敏性と白兵戦での戦績でその名を『螺旋の大地』に知らしめていたのだ。
武勲武功の誉れ高いトマスではあったが、同時に彼女には史学好きという一面を持っていた。武術の訓練を怠る日はなかったのと同じように、読書をせずに眠る日は同じく一日とてなかった。どれだけ疲労困憊でも、高熱にうなされる様な病の時にでも彼女は一度は剣の柄を握り、一行だけでも本を読むことを自らにルールとしてかしていたのである。
なぜそれほどまでに魔族の歴史に興味を持ったのか。それは彼女の家に伝えられていた、とある伝統に根ざしていた。
トマスの家には門外不出の舞踊があったのだ。
代々に渡り受け継がれているその舞踊は存在の一切を、例え魔王であっても口外することを禁じられていた。それを伝授された際に血魔術での誓約まで交わされたほどに秘匿すべき家の秘密であった。その時の父母の真剣な目は今でも脳裏に焼き付いている。
しかし、秘すればこそ抱く興味もあるのだ。
本来であれば直接その舞踊とその起源について調べてみたかったトマスであるが、それが危険な行為であるということは十分に理解していた。大っぴらに動けば目を引くし、家族が止めに入るだろう。そこで彼女は絡め手として魔族社会の歴史について深く探求するようになっていたのだ。
ありとあらゆる歴史書を読み耽り、そこから家系に伝わる舞踊の真意を探ろうと日夜画策していた。幸いにも魔王の城にはそう言った類の歴史書は多く存在していたのが、彼女にとっては僥倖だった。
だが元を正して行けば、この歴史愛好が魔王に反逆を目論む発端だった。
書物を読み進めている内に、トマスは自分たち魔族の歴史が故意的に改竄、抹消されているのではないかという考えを持ち始めた。あらゆる書物が精巧に作られていたので杞憂とも思える様な矮小な違和感だった。
けれども今回の魔族に対する大規模な記憶消去の魔術と魔王の様子とを垣間見たトマスには、最早それを妄想だと切り捨てるだけの論拠がなくなっていた。
そしてもう一つ。
それは魔王の居城のとある場所で起こったことだ。
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