自問する造反者
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タークラプはしゃがみ込みながら身を乗り出すと、首を傾けながらトマスを見た。ただその真正面にいたトマスだけが彼の焦点の合わない不気味な眼に晒されている。息苦しいのか、彼は大きく深い呼吸を一つして見せた。相変わらず口角が上がっているので、歯が無防備に晒されている。
「何故、造反を企んだ?」
…。
またか、とトマスは心に沸いた苛立ちを隠すことなく言葉に載せて返事をした。
「何度も同じことを言わせるな」
◇
トマスが反旗を翻した理由。
それは単純に魔王への不信感の一言に尽きる。
十数年前に突如として『囲む大地』の征服計画が魔族の間に流布された。その知らせを聞いた時こそ、トマスは高揚感を覚えもしたが具体的な策略を聞いた時、それは一気に瓦解することになる。
これほどまでに疑心と反抗心を持つには三つの理由がある。
一つは方法。
個体の資質で言えば魔族の方が優位性を築けるものの、『囲む大地の者』には数で多く劣るのが魔族の現状だ。その上魔族は寿命が短く、平均的には60年程度しか生きることは出来ない。だからこそ、『螺旋の大地』の魔王の居城付近に住まい、いわゆる防衛線の形をとることで魔族は『囲む大地の者』に対抗してきた。
そのシステムをいきなり崩壊させ、記憶を奪ってまで魔族を『囲む大地の者』の支配下に置く理由が分からない。その上、武勲武功を持つ魔族の記憶をそのままにしたというのも気に食わない点の一つだ。
これはむしろ『囲む大地』への征服を傘にした低ランク魔族の厄介払いに思えてならない。
次に不審に思うのは、この計画の立案者。
それは他でもなく、魔王の側近として唐突に現れた四人の事だ。
ソリダリティ、ノウレッジ、エンビション、ストレングス。
奴らはそれこそ出し抜けに現れたかと思えば、魔王直属の最高位としての職務を与えらればかりか貴族階級よりも上の地位を授かった。強引で説明不足な人選に不満を抱いたのは私ばかりではなかったはず。
噂では夜な夜な寵愛を賜るような関係でもあると囁かれてさえいるのだ。色香で懐柔されたと疑って誰が咎められるというのか。
そして最後に魔王が直々に『螺旋の大地』を出た事。
恐ろしい程の力を有しながらも、これまで頑なに居城を動こうとしなかった魔王が何故ここにきて重い腰を上げたのか。
トマスがこの疑念を抱いた時、彼女の頭の中にある一つの光景がフラッシュバックしたことを誰も知らない。
それはトマスが子供の頃に見た、決して誰にも打ち明けずに心に秘しておくと誓った光景だった。
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