決断する勇者
「バトン、というのは確か主の同輩の名前だったな」
「…ああ、そうだ」
ルージュの声に一先ずの落ち着きを取り戻したオレは、何とか返事をした。そしてエンヴィジョンと名乗った女の正体に心当たりがあると切り出して、事情を説明したのだった。
話が終わる頃には全員が神妙な面持ちになっている。唯一、アーコだけがあっけらかんと返事を返してくれたのが、とてもありがたかった。
◇
「ま、そりゃ微妙な反応にもなるわな」
「性別を変えられるというのは盲点でしたね。あれほど容易に容姿を変えられるのですから考慮すべき点でした」
「いや、むしろこの段階で分かって良かったと思う方が建設的だな。オレのかつてのパーティにはなるべく関わりたくはない。今みたいにちょっとした癖や言動でバトンだと気が付いたように、下手に接触するとオレの正体に気が付くまで行かずとも妙な警戒心を与えるかもしれない。ザートレは死んでいると思わせておいた方が圧倒的に優位性を築ける」
そりゃそうだ、というアーコの相槌が入ったのとほとんど同時に、ピオンスコが無邪気な声を出した。
「でもさ、バトンってビーロス族の人って男だったんでしょ? なんで女の人になっちゃったの?」
「単純に考えれば魔王に取り入るためではないですか? 魔王だって一応は男です。男でいるよりも女の姿になって身体を使おうとでも考えたのでしょう」
「…お前の冷静な分析とピオンスコの無邪気さは、今だけは毒だ」
かつてのバトンを知っているオレはトスクルの推測を真に受けて想像してしまい、形容しがたい心持になってしまった。
そして、ふうっと息を一つついてから言った。
「とにかく、オレのかつてのパーティのうち三人が姿と名前を変えて魔王に仕えている。という事は、未だ接触のないシュローナというニアリィ族の女も同様と考えるべきだ。奴だけ今のところ何の情報もない…思い付く理由としてはフェトネック、いやセムヘノで出会ったノウレッジのようにどこかの街に派遣されているのかも知れない。血の気の多い奴だったからな、側近として使うよりも実戦の必要な役回りをしている可能性は高い」
「だが、それはここで考えても仕方がないことだ」
「ああ。その通りだ」
「じゃあどうする? ルージュとの合流は叶ったが、俺達はもうナハメウとやらを殺して一石を投じちまってる。この街から逃げ出すにしても連れ去られた連中に接触するにしても急ぐに越したことはない」
アーコの言にその場の全員の視線がもう一度オレに集中した。
客観的に見れば逃亡をすることを念頭に置くべき状況だ。しかし、皆の命を預かっている身で申し訳ないのだが、オレの勘働きがこのまま進めと強く推してきていることも自覚している。
だからオレは極めて低く伝えた。
「進む。当初の計画を可能な限り実行する」
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