追憶する勇者
オレ達の脳裏に浮かんできたのは、やけにぼんやりとした記憶だった。風景からは色味が失せていて白と黒のコントラストでしか色が認識できていない。それほど曖昧な記憶なのか、それとも作為的に抹消された記憶を引き出した弊害なのかはオレには分からない。
まず過ぎったのはあの黒装束の三人組の過去…。
薄々気が付き、考えないようにしていたのだが、あの三人は元を正せば『囲む大地の者』だった。宿屋でナハメウからかすめ取った記憶でも見た通り、奴らに肉体を編成させられてその過程で記憶と精神をいじくられたようだった。
眼前には魔王とソリダリティと更にもう一人の女がいた。魔王はその二人に挟まれる様に立って、無理矢理に跪かされたこちらをいつかあの城で見たのと同じ顔をして見ていた。
傍らの女二人は悲鳴と絶叫と共に肉体が変容していく様を見ながら、何とも言えない恍惚の表情を浮かべている。
その時の三人が抱えていた絶望、無念、恐怖、怒りといった感情がオレの心とシンクロして吐き気にも似た激情が込み上げてきてしまった。
……。
オレが何とかその感情を堪えていると、見ていた記憶が別の場面へと切り替わった。やはり万全とは言えず、覗いた記憶も断片的なものになっているようだ。
今度見ている記憶は、肉体が改造される少し前。
捕らえられた三人が『囲む大地の者』の姿のままで拘束され恨み節と共に魔王たちを睨みつけていた。こいつらは元を辿ればルーノズアに居を構える腕利きの傭兵で、魔王たちが現れた際に先陣を切って戦った連中のようだった。確かに並大抵の奴よりも腕が立つことは雰囲気や体捌きで感づいていたのだが、それでもやはり魔王には遠く及ばない。
街の一角がくり抜かれたように不自然な戦場と化している。その中で、リーダー格の男が息も絶え絶えに魔王に尋ねていた。
◆
「…目的は何だ。この街を、どうするつもりだ?」
その問い掛けに魔王は薄気味悪い笑みと共にさも当然のような態度で返事をした。
「魔王なんだからさ、世界征服に決まってるじゃない」
「…!」
「優秀な配下ができてね。退屈しのぎには丁度良さそうな計画を立ててくれたものだから実行してみたんだ。第一段階が完了したから、ちょっと無理をしてでも『囲む大地』に来てみたんだよ。詳しくはその優秀な部下から聞いてくれ」
魔王はそう言うとまるで旅行者が初めて訪れた街を観光するかのように、ソリダリティと共に歩き始めた。
すると残っていた謎の女がツカツカと歩み寄ってから口を開いたのだった。
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