引っかかる勇者
「今から十日ほど前…この街に妙な一団が現れた」
老人は前置きなどもなく、扉が閉まるのと同時に声を出した。瞳は虚ろで、オレ達の姿が映っているはずなのに見えていない様な、そんな様子だ。空気に向かって話しかけていると言われた方が納得していたかもしれない。
そして老人は続ける。
「それからはあっという間だった。街の連中は連れ去られるか、さもなくば殺されるかのどちらか。向こうは3人だけだっていうのに手も足も出なかった」
それは十中八九、魔王とレコット、そして傍らにいた見も知らぬ女の魔族の事だろう。一介の町民など、赤子の手をひねるよりも簡単に制圧できるはずだ。気になるのは十日前という情報の方だった。思っていたよりも最近で、言い知れぬ不安を覚えた。
「連れ去られた連中の行き先とか、そこで何をされているのかは知っているのか?」
アーコが尋ねると、力なく首を横に振るだけの返事が返ってくる。その様子を見たトスクルが一番の疑問を投げかけた。
「あなたはどうしてそのどちらでもないのですか? それと他にも無事な『囲む大地の者』がいるんですか?」
「さてね。広い町だ、儂の知る限りは一人もいない」
「では、どうして自分は無事なのか心当たりは?」
「それも分からん。強いて言えば無抵抗だったからじゃないか…いや、無気力といった方が正しいか」
「無気力?」
「ああ。あの連中がやってくる数日前に一人息子に先立たれてな。殺されようがどうしようが、むしろありがたいと思っていたらこの様だ。『囲む大地の者』を謀るために、儂のような奴が必要だったんだろうな」
「そうですか」
トスクルは不幸な身の上話には、まるで興味を示さない風な態度を見せた。老人は更に冷たい息遣いになって、反対に質問してきた。
「お前らはどうするつもりだ? そもそも魔族のくせに何であの女を助けようとする? 大人しく尻尾を振っていりゃ魔族にとってここまで良い町もないだろうに」
「そいつは簡単だ。連れ去られたフォルポスとこっちの四人は魔族だが、オレは歴としたフォルポス族だからさ」
そう言ってオレは一旦の変身を解いて元の姿を見せた。
老人は頭をほんの少し浮かせた。驚きの表情こそ見せなかったが、この部屋に入って初めて目が合った。その時、故郷は違えど同じフォルポス族としての好か、妙な情が湧いてしまい、オレは自分たちの目的を話して聞かせてしまった。
「この街を襲ったのは魔王とその配下だ。オレ達がここにきたのは偶然だが、元はといえば魔王を討伐するために旅をしている。だから奴らの目的を探っている、あの女が攫われたのも懐中に入り込むための策の一つという訳さ」
「…そうか」
「アンタは本当にこれ以上何も知らないようだから、もう用はない。オレ達には時間もないからな、あとは好きにすればいい」
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