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冷徹な勇者

 全員の説得の甲斐あってか、ラスキャブの瞳に覚悟の色が付いた。それでも恐る恐る躊躇いながら、ラスキャブはナハメウの死体に手を伸ばしていた。


 ラスキャブの手が死体に触れると、ジワリとした光の膜のようなものがそれを包み込む。毒に蝕まれ、絶命によって血の気の引いた肌にはハリが戻り瑞々しくなったかと思うと、確かに死体だったナハメウはおもむろに起き上がった。いつか、蝿の一匹を甦らせて騒動になった事があったが、その時よりも高度な術式に思えた。


 歴とした屍術を見たのは、思えばこれが初めての事だ。虫程度のものなら、ひょっとしたら別の魔法で誤魔化されていたかもしれないと、頭の片隅に疑いが残っていたかもしれないが、ここまで死体然としたものが動き出すのを目の当たりにすると最早信じるほか仕方ない。


 ところが、動く死体を見て一番驚いていたのは、他ならぬラスキャブ本人であった。


「ほ、本当に動いてる」


 そんな呟きに、すぐに合いの手が入ってくる。


「当たり前じゃん。ラスキャブは屍術師なんだからさ」


「確か、この段階である程度の行動命令を伝えられたはずです。ラスキャブ、やってみて」


「うん。わかった」


 ラスキャブは目をつぶり、意識を集中させた。が、すぐに弛緩してこちらに振り向いてきた。


「なんと命令すればいいでしょうか?」


 この抜けている加減と、使える術の禍々しさのギャップが何とも言えない雰囲気を醸し出す。そのお蔭か、オレは落ち着き取り戻して冷静に状況を判断することが叶ったのだった。


「こいつの連れて行きたかった場所も目的も不明だ。その上でルージュを救出に向かうとなると…適当に街をうろつかせて攪乱係に使うのが一番いいと思うが、どうだ?」


「それがベターだろうな。連れて行ったらあの黒装束共に確実に怪しまれるし、いつまでたっても俺たちが現れなかったら自然とこの宿に敵の目が向くはず…それなら全員が行方知らずの方が架空の敵と戦ってくれるかもしれねえ」


「でしたら、手始めにこの宿の亭主だった老年のフォルポス族を始末するように命令すべきです。確実にワタシ達の障害となるでしょうから」


 そうか。あの男の存在も忘れていた。確かにトスクルの指摘通り、この街にいて尚且つ魔族に隷属しているという事は敵側と判断していいだろう。だが、その前に確かめておきたい事がある。


 オレは念よりも先にアーコに視線を送った。それだけで伝わったようだ。殺す事になったとしても、それは情報を引き出した後からでも決して遅くはない。オレは全員に亭主の部屋へ向かうように指示を出した。


 じっくりと考えるのは苦手だ。特に今はルージュが事実上連れ去れているのだから。すぐにやるべきことをやり、例の秘密通路からルージュを追わねばならない。


読んで頂きありがとうございます。


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