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白々しい勇者

 その夜の事だった。


 不気味な程に宿屋の中は静まり返っており、返って気持ちが悪い。恐らくはオレ達の部屋に施していた防音の術を建物全体に張り巡らしているのだろうと予想した。


「今日の夜に、眠らずにいてくれ」


 それがナハメウから伝えられた唯一の伝言だった。ルージュを裏切る旨を話したその日の内に動くという事は、余程手慣れた作業になっているのだろう。向こうがこちらを信用してくれているのが、安心感につながっていた。


 ルージュには不自然な待機をせずに、灯りを決して眠ったフリをするように伝えてある。


 九分九厘、その場で殺されることはないだろうし、仮にそうだったとしても並の相手では太刀打ちできないから、その点は問題ではない。


 その時。オレ達の使っている部屋をノックする者がいた。すからずルージュに合図の念を送ると、オレは慎重に戸を開けた。そこにはナハメウと黒装束に身を包んだ4人の魔族がいた。放たれるオーラや立ち姿である程度の実力は知れる。全員が戦い慣れした貫録を醸し出していたが、同時にこの4人が束になって襲い掛かったとしてもルージュの敵ではないと安堵も生まれた。


 オレはその感情を表に出さないように努め、代わりに白々しい言葉を出した。


「その人達が?」


 オレの問いにナハメウはコクリと頷いた。


「はい。この方たちがあの性悪なフォルポスを始末してくれます。あなたたちは晴れて自由の身…正確に言うと自由の身の一歩手前といったところでしょうか?」


「それは…どういう意味だ?」


「最後に会って頂きたい方がいるんですよ。あの女を始末したら、お付き合い願いますか?」


 オレは戸惑った。予想外の申し出だったからだ。


 まずいな。ここで断るのは不自然だ、かと言ってルージュの動向を放っておくという選択も取りたくはない。だがここまで来ておいて、奴らに逆らうのは不審にしかならない。ここはルージュを信じて一度話に乗る他はなかった。


 オレは息を整え、部屋の全員に確認を取る風に装い、振り向いた。


「全員、いつでも動けるように準備をしておけよ」


 アーコたちは緊張した顔を装って頷いたのだった。するとナハメウは一仕事終えたように一瞬、安堵の表情を浮かべた。


 そこでオレは少しでも情報を引き出したい一心で、尋ねてみた。


「ところで、どうやってアイツを連れ出すんだ? 今更言うのもなんだが、かなりの手練れだぞ?」


「心配はいりません」


 ナハメウは笑った。


「この宿はこうして『囲む大地の者』を拐すための魔法式が何重にも施されているんです。今頃は眠りこけていますよ」


「戦う訳じゃないのか。ならどうするんだ? 殺すのか?」


「いえ。殺すよりも、もっと面白いことです。あの女は…」


 その刹那。ナハメウの言葉を遮るように、後ろの男の一人が声を出した。


読んでいただきありがとうございます。


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