踏み入れる勇者
ルージュが部屋の中に入ったのを見送ると、オレはすぐに行動に出た。声が聞こえているかも知れないつもりでナハメウの方を叩くと、自分たちの部屋に来るように身振りで伝えた。
ナハメウもすぐにピンと来たように頷いて、何も疑う様子を見せずにオレ達の部屋にやってきた。
部屋の戸を閉めると、念のために耳を指差し最後の確認を行った。
「大丈夫ですよ。音は消してあります」
「そうか、それは助かる」
「僕を呼んだという事は、結論が出たんでしょうか?」
「ああ。外に出た隙にみんなで話し合った」
「それで、結論は?」
「全員一致で、あの女から逃げ出したいということになった。力を貸してもらいたい」
オレがそういうと、ナハメウはニヤリと勝ち誇ったような顔を見せた。顔立ちがオレ達よりも幼い分、余計に薄気味悪かった。
「わかりました、話を通しておきます。確かな事は僕も分からないので申し上げられませんが、早ければ明日の朝くらいには晴れて自由の身となっているはずです」
するとアーコが満面の笑みになって、ナハメウに握手を求めた。
「ありがとうございます…これでやっと、あの性悪なフォルポス族から解放される…」
「い、いえ。僕は何も…ただの中継ぎですから」
と、アーコに手を取られて照れを見せるナハメウだったが、これも作戦の内だ。容易く術中にはまってくれた。いや、タイミングを逃さず自然な形で接触をしてくれたアーコのセンスが良いだけかも知れない。
ルージュとアーコは相手に触れることで記憶を読み取れる。ナハメウの口ぶりでは、かなり浅い役どころを担っているようだが、それでも情報はあるとナイトでは大違いだ。
オレ達からルージュを引き離す手段と時間、目的地もしくはそこまでのルート、それを仕切っている黒幕。
せめて一つでも分かってくれれば、これからの策がより具体的に練ることができる。
やがて手を離してナハメウが部屋を出ると、アーコは読み取った記憶を全員に共有してくれた。時間は不明だが、過去の拉致の方法によると、毒を盛った食事や魔法により相手を眠らせて、それを複数人で運び出す手口らしい。オレはここで安心感を覚えた。過去に何人もこの方法で攫ったという事は、被害者たちは未だに生きている可能性が高いだからだ。もしも殺す気なら、眠らせるなんて面倒な事はせずにその場で決着をつける方が遥かにやりやすいのだから。
目的地やルートに関しても得るものがあった。確定した情報ではないが、ナハメウ自身が見聞きした噂ややり口から大よその場所の検討を付けていたのだ。土地勘のないオレ達にしてみれば確証はなかろうが、一つの足掛かりになり得る場所が見つかったのは大きい。
そして。
最も大きな収穫もある。
ナハメウの記憶の中にも魔族に変貌したレコット、つまりはソリダリティと名乗る女の姿があったのだ。
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