演じる勇者
それからは向こうの思惑にわざと引っかかる前提で細かな相談を始めた。しかし、やはり肝心要の部分が想像の域をでない不確定要素であったために、結局はルージュの状況判断のセンスと離れたルージュとの連絡が最も確実であるアーコの機転とに頼ることになってしまった。
いい加減、宿にも戻らないと勘繰られる程の時間も過ぎていたので、オレ達は広場を後にする。そのまま宿屋の扉を開けると、突然慌てた様子のナハメウがこちらに走ってきた。
「ちょっとマズイことが起きました」
その言葉で、オレの中にも焦りが生まれた。
こちらの思惑がばれたか、それとも先ほど申し出てきた話を反故にしなければならない様な事情でもできたのか、もしくはそれ以上の何かか…。
などなど、一瞬のうちに頭の中が渦巻いた。
「あのフォルポス族がどこにも見当たりません。もしかすると、こちらの動きに感づいたかも知れません」
ところが、実際はまるで反対だった。当然ながらルージュが剣の姿に戻っているなどという事は夢にも思っていない。その上警戒していた相手が部屋から忽然と姿を消したとあっては取り押さえる計画がばれ、逃走されたと考えてもおかしいことはない。
咄嗟にオレ達は芝居をうって、ナハメウに乗っかった。
「そんな馬鹿な事があるか」
そう言って真っ先に階段を登り、ルージュが宛がわれていた部屋へと急ぐ。戸を叩き、中に声を飛ばしてから部屋に入る。そしてすぐさま、ルージュを鞘から抜くとフォルポス族の姿になるように言った。
「うまく合わせてください、ご主人様」
「…やはり、その姿の主はどうも好かんな」
そんな悪態を背負いつつ、オレは再び扉を開けて廊下に出る。そこにはアーコ達に囲まれ、固唾を飲んでいるナハメウの姿があった。
オレは誰に対してではなく、全員に聞かせるようなつもりで声を出した。
「ちゃんと部屋にいるよ。ベットで横になっていた」
「え? そんな馬鹿な…」
驚きを露わにするナハメウだったが、オレを追いかける形で部屋から出てきたルージュの姿を見ると、とてもバツの悪そうなそれでいて不可思議さを隠しきれていない表情になった。
「なんだ、騒々しい」
ルージュはその場の全員を睨みつける。勿論芝居なのだろうが、オレまでも少なからず委縮してしまった。
「申し訳ありません。色々と勘違いがあったようで」
「ふん。勘違いするほど暇な時間を持っているのか?貴様らも、港の様子を見てくるだけでどれだけ時間を使っている。死にたくないならもっと死に物狂いで働け、無能共が」
と、乱暴に扉を閉めたルージュの演技に飲まれていると、
「こえー」
というアーコの本心ともわからぬ感想が耳に届いたのだった。
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