招き入れる勇者
「・・・魔族か」
オレは地面に転がって這いながら後ずさる少女を見て呟いた。見た目だけならかなり若い。十五、六歳といったところだろうか。魔族の年齢は分かりずらいから定かではないのだが。
だが、それでも異形の形は成していた。袖や裾から見える肌は少し虫っぽく見える。恐らくだが何かしらの甲虫をベースにした肉体をしているのだろう。丸くツバのない帽子の後ろから出ている二本の三つ編みは青みがかかっている。それと同じ色の瞳には涙がたまっていた。
同じく魔族であろうルージュの顔色をチラチラと窺っているが、自分の味方ではないという事を雰囲気で感じ取ったようで、さらに絶望の色になった。
オレは腰巻に使っているクローグレの毛皮を見て少女の正体と、何故あのような上級の怪物がこんな田舎の森に出たかを察した。
「お前・・・『召喚士』だな?」
「ひぃ」
思わず凄んでしまった。事態をよく分かっていないルージュがオウム返しにオレに質問してきた。
「召喚士?」
「ああ。さっきの熊の怪物はこいつが召喚したものだろう。そうだとすれば、こんなところでクローグレに出くわすのも説明が付く。尤もクローグレを、それも二匹も召喚するとなるとかなりの使い手だ。召喚士は自ら倒した怪物の体の一部を身に纏うことで、それを媒介にして霊性に肉体を与える。その時に力量が足りないと、その召喚した怪物に逆に襲われたりもするが、こいつは見事に使いこなしていたからな」
「なるほど」
と、一言言ったルージュはつかつかとその少女に歩み寄る。右腕には再びあの青黒い光のブレードが出来ていた。
「それで? なぜ我が主を襲った?」
「わ、わたしは貴女を助けようとしたんです・・・」
「私を助ける?」
「フォルポス族と歩いていたので、てっきり従属させられているんだと・・・だから解放して一緒にいてもらおうとして・・・」
その返事に今度はオレが反応した。
「一人なのか? パーティはどうした?」
その見た目のせいで、つい情けをかけてしまった。本来であれば即刻排除すべきであるというのに。魔族の女はどういう仕組みか、往々にして庇護欲をかき立てるような見た目や仕草を見せてくる者が多い。それが奴等の手とは経験上、嫌というほど分かっている。
などと思った時には後の祭りだった。少女は身の上話を聞かせてきた。
「・・・それが・・・分からないんです」
「どういう意味だ?」
「き、記憶がないんです。自分の事も、何でここにいるのかも殆ど覚えていなくて・・・気が付いたらこの森にずっといたんです。だから通りかかる行商やパーティを襲って他の魔族がくるのを待とうと」
オレは立ち上がり、耳打ちするようにルージュに尋ねた。
「・・・どう思う?」
「嘘を言っているようには見えないな。思えばさっき私が斬った熊も、私ではなくて主を狙っていたかもしれん」
「そうか・・・」
その時。
オレの頭の中に妙な考えが浮かんだ。少女の素性も言葉の真意も不確かなままで、何故こんなことを思いついたのか、自分でもよく分からない。そんな頭は冴えながら酔っぱらっているような心持のままに、オレは少女にこう告げた。
「お前。オレ達と一緒に来る気はないか?」
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