混乱する勇者
食い終わった串を返すタイミングで、オレは屋台の女に声をかけた。
「ところで港はどうやっていけばいいんだ?」
「港? 遊覧かい?」
「それもいいんだけど、『螺旋の大地』に向かう連絡船について調べてくるように言われていてな」
「ああ、それなら残念だけど、今は出ていないらしいよ」
「出ていない? なぜ?」
「さあてね、よく分からないよ。ともかく漁と遊覧以外で船を出すと捕まるとか何とか言ってたけど」
…。
やはり『囲む大地の者』をどうにかしているから、『螺旋の大地』への移動手段はいらないのか。いや、ラスキャブ達を思えば向こうに帰りたいと思う魔族もいるはず……違うな、奴らは基本的に記憶がないのだから、そんな事すら考えないのかも知れない。
だが、航海を禁止するというのは、やはり裏があるような気がする。最悪の場合、船を奪ってでも『螺旋の大地』を目指すこともあり得る。どの道、港の場所や様子は確認しておいて損はないはず。
「どちらにせよ、折角ルーノズアに来たんだ。港は見ておきたいから場所を教えてくれ」
◇
教えてもらった道は単純なもので、角を一度曲がるだけで港に辿り着けるらしかった。
夜という事もあるだろうが、港町にしては賑わいが弱い気がする。やはりやってきた『囲む大地の者』を謀るために、町全体が画策しているのだろうか。これは裏を返せば、オレ達以外にもやってくるパーティがいるという事。むしろ、ここは五大湖港のルーノズア、今までそう考えなかった方がおかしい。ともすれば、他の『囲む大地の者』を探す事にも注力した方がいいだろうか。
恐らくはオレ達と同じような手口で宿屋などに入っているはず。手当たり次第に探すには非効率か。
などと、そんな事を考えていると、ふとトスクルが声を出した。
「あ」
「どうした?」
何か気が付いたような顔のトスクルだったが、確信は得られていないようでキョロキョロと辺りを見回しては何かを確認している。やがてオレに近寄り、真っすぐとした目を向けたトスクルは、小声で言った。
「ワタシ、ここを知っています」
「知っている?」
「はい。正確に言うとワタシはこの町で洗脳されて、あいつらと共に行動することになったんです」
「何だと!?」
あの魔族たちの記憶にあった町がこのルーノズアならば、魔王とレコットが未だに滞在している可能性もあるのではないか? そうだとすると少し厄介だ。『螺旋の大地』の試練を突破していないオレ達にとって、悔しいが現状では勝ち目がないからだ。
オレは一瞬にして思考が混乱してしまう。すると、その混乱を鎮静させるようにルージュの声が頭の中にこだました。
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